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遥
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「こんにちは、どうされました?」
俺の体をジロジロ見ながら、明るい声で俺に話しかけた、若い女性。
「弟に会いに…」
他人との付き合いが苦手な俺は、無意識に目を逸らしていた。
それでも優しく「お名前は?」なんて聞くものだから、焦って「遥」なんて答えてしまった。
女性は不思議そうに顔を傾け、「遥なんていないよ?」って笑える。
この人は、弟の名を聞いていたのか…
「弟は悠斗。いるよね?」
「うんいるよ。でも会ってくれないかも…」
そう言いながら、俺を悠斗のもとまで案内してくれた。
連れてこられたのは、共同スペースらしきところ。
みんながワイワイ遊んでいる中、1人でぽつんと端のほうに座り込んでいる子がいた。
悠斗の顔は知らないが、まさかあいつ?
そう思っていると、案の定そいつが悠斗らしく、さっきの女性がそいつに近づいていく。
悠斗は、女性の手にすら怯えて、もっと縮こまってしまった。
「悠斗くん、お兄さんが会いたいって」
「お兄さん…?」
悠斗はキョロキョロと周りを見渡して、
俺と目が合うと、サッと目線を外した。
あんまり怖がらせるのもかわいそうと思って、
「今日はもう帰ります。また来ますね」
そう言って家に帰った。
次の日も、次の日も、一言も話さないまま、
顔だけ見て帰る日々が続いた。
今日も、「じゃあ帰ります」そう言って帰ろうとしたら、
「遥さん…」
なんて消えいりそうな声が後ろから聞こえて、
振り返ると悠斗が俺を見つめていた。
いつも逸らされる目が、しっかりと俺を見ていた。
「悠斗くん?どうしたの?」
「あっ、いや… ごめんなさい」
どうして俺の弟たちはこんなにも謝るのだろうか。
「ううん。俺の名前覚えててくれたの?」
そう言えば、一度自己紹介した気がする。
「あのね、遥さんが帰ったあとね、凄い寂しいの。
お父さんが居なくなったときも寂しかったけどね、遥さんが帰ったとき、もっと寂しかったの」
必死に伝えようとする悠斗が凄く可愛かった。
『俺は必要とされてるんだ』
そう思うと、目から熱いものが流れ落ちた。
「ごめんなさい。迷惑だった?」
「違うよ。嬉しくて…悠斗くん、こっち来てくれない?」
悠斗はおどおどしながらも、ゆっくりと俺に近づいて、俺に触れてくれた。
「遥さん…えっとね…また来てよ」
あぁ、俺は必要とされてる。
こいつには俺が必要なんだ。
「また来るよ。俺が大人になったら一緒に暮らそう。な?」
俺は俺を必要としてくれるこいつ、悠斗と約束を交わして、家路についた。
晴れやかな気持ち、
だったと思う。
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