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遥
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仕事は在宅の仕事に変えた。
もちろん給料は前よりも悪いが、
会社に行かなくていい分、とわや悠斗といる時間が増えた。
とわの頭を撫でる時間。
悠斗に勉強を教える時間。
俺は変わったんだと思う。
自分のためじゃなくて、弟たちのために。
弟に好かれる完璧な兄になる。
そう決めた。
はず。
「…っ…はぁっはぁっ…ぁはぁっ」
「ん…とわくん!? 大丈夫か?ナースコール押すからな」
夜中の3時。
悠斗は俺の隣で夢の中に入っている時間。
最近夜中に発作をおこす確率が高い。
だから夜も医者に頼み込んでとわの横で寝ていたら、やっぱり発作。
意識は戻ってないのに…
胸を思いっきり握りしめて、苦しそうで。
「とわくん、大丈夫だからね… あぁ、ごめん、遥くんは悠斗くんとちょっと出てて」
「はい。あっうん…」
とわの主治医は、俺のことをずっと子どもだと思ってる。
まだ二十歳過ぎていない点では子ども何だろうけど、
俺は就職してるし、もう大人なんだけど…
しばらくたって、主治医や看護師が病室から出てきて、
俺も中に入ろうとすると、主治医に引き止められた。
「何ですか?まだ入っちゃダメと?」
「ううん。でも少し話しない?」
「分かりました」
ただの話じゃないと思うけど、だからこそ話さないと…
俺はとわの兄で、もう大人なんだから。
「ん…はる兄?」
悠斗を抱き直していると、振動で起きてしまったみたいで、
不安そうに周りを見回して、俺の顔を見つめた。
「主治医の先生と話すだけだから。ね?おやすみ」
抱き上げたままトントンと背中を叩いてあげると、
もう一度夢の中に。
「遥くん、悠斗くんそのままでいい?」
「はい。別に…」
無意識に合った目線を逸らしてしまった。
あぁ、やっぱり他人と話すことって嫌。
就職のために練習はしたけど、苦手なものはやっぱり苦手で…
「とわくんのことなんだけどね、ちゃんと考えて欲しいんだ」
「えっ?どういうこと…ですか?」
「両親とは連絡とれるかな?」
「父親は無理ですし、母親は死にました」
「あぁ、ごめん…じゃあ遥くんに話すから、ちゃんと聞いてくれるかな」
「はい…」
「とわくんが起きることはもうほとんど可能性が…無くて…
最近の発作で体力もなくなっているから、このまま衰弱していくとわくんを見ることになると…」
「そ!それで…?」
「だから、遥くんたちにとってベストな選択をしてほしいんだ。
言ってることわかる? つまり…」
「いや!! いやです」
この後に主治医が言うであろう言葉が読めて、
俺はたまらず遮る。
絶対に嫌。
だって…
「遥くん、ちゃんと聞いて。
大人の話をするとね、とわくんの治療費に入院費…
いくら国からお金がでるからって、遥くんが払えないくらいのお金がかかってるしこれからも…」
「俺はもう子どもじゃないんです。就職もしました。
だから…諦めないでくださいよ。俺はとわくんに謝らないといけないのに…」
悔しくて。
『払えない』と言われるのが悔しくて。
ボロボロと溢れ出す涙がとまらなかった。
「遥くん…ねぇ、弟たち好き?」
「……」
好きに決まってるだろ?
可愛くて可愛くて仕方ないんだよ。
「とわくんと何があったの?僕、聞いていい?」
「嫌だ。俺が悪いんだ。俺が…」
俺が下を向くと、「ごめんね」って俺の頭を撫でて…
「やめろ!あっ…やめて、ください」
俺に触れるな。
他人と話すのだって嫌だし怖いんだ。
頑張って話聞いたのに…
なんだよ。
俺のこと知ったふりして…
「…んぁ?はる兄?」
「ごめん、起こしちゃったな」
「はる兄、泣いてるの?」
「ううん。大丈夫」
頭をポンポンと撫でてやると、
悠斗はふわっと笑って、俺の頬を拭った。
「ん?ごめん、ありがと」
俺が笑うと、悠斗は先生のほうに向いて、
怖いはずなのに、「はる兄に何かしたら許さない」って。
「悠くん、話終わったから戻ろっか。とわくんのところに」
「うん!」
いい加減起きなよ。
な?とわくん。
君が起きないからあんなこと言われるんだよ。
ねぇ起きて。
お願い。
こんなに願っているのに。
でも、
俺は祈るしか出来ない。
だから祈り続けるよ。
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