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「貴方の心臓が欲しい」
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https://shindanmaker.com/375517
『週に二回ほど、できれば三回、準備室にきてください』
担任でも担当教師でも学年担当の教師でもない、つまりこちらは全く面識のない教師に呼び出され、そう言われた。高校に入学して間もなかったから、自分に声をかけてきた教師がどんな人物なのか知りもしなかった。
背は高いが、ひょろりとしていて猫背。前髪で目は見えず、伸ばし放題の後ろ髪は一つにまとめられているが、だらしがない印象は拭えない。生物の教師らしく、いつも白衣を身にまとっている。
同級生、先輩、他の教師いわく、
「よくは知らないが、変人」
そんな変人と称される人物との週二回ほどの密会じみたものは、一年ほど続いている。
北館の二階、廊下の一番奥。誰も用がない限りは近づかない生物準備室に、いつもと変わらない足取りで向かう。日当たりが悪く、通気性も悪い北館は、少し湿度が高くなっただけですぐに窓が結露する。
梅雨入り目前の今の時期は、特にひどい。腐ってないのが不思議な木製のドアを三回、こん、こんこん、といつの間にか定着したリズムで叩く。
「はい」
中から返ってくる低い声を聞いてから、立て付けの悪い引き戸をガタガタと開け、部屋に入る。
「鍵、閉めといてください」
「閉めてないことありましたか」
立て付けの悪さから両手でドアを閉めながらそう返す。
「ないですね」
頭上から降ってくる声に振り向き、顔をあげると、先生は唇を引っ張ってにやりと笑っていた。
「教師がそんな顔してもいいんですか」
「君しか見ていません」
ガチャリと鍵が閉められる。
「もう夏服の時期ですか。どうりで暑い」
「先生も暑さとか感じるんですね」
「私も人間ですから」
他愛もない会話を交わしながら部屋の奥に進む。ぎしりと音を立てて先生はキャスター付きの椅子に座る。自分はその向かいの椅子に。
「冬服と違って脱がせやすいからいいですね」
「それ合服の時も聞きました」
手が伸びてくる。制服のボタンに手をかけて外して、袖を腕からぬく。下に来ているTシャツは小さい子にするようにして脱がされる。
「暑いと思っていたんですけど」
「うん」
「脱ぐと少し寒いですね」
「そうですか」
二の腕のあたりを緩く掴まれる。頭が近づいてきて、みぞおちより上、真ん中よりも少し左よりのところに唇があたる。
わずかに当たる髪の毛がくすぐったい。
ちくっと吸われた後に、もう一度唇が当てられた。
頭があがって、長い前髪の隙間から目が合う。
腕を緩く掴んでいた手の左手の方が首の後ろにまわされる。
促されるようにゆっくりと距離をつめて、唇をあわせた。
脱がせた時を逆再生するように、元通りに制服を着せられる。
「そういえば」
「はい」
「クラスの女子が話していたんですけど」
「なんでしょう」
「キスにも意味があるんですね」
ボタンを留めきった先生が、ちらりと顔をあげた。
「ご存知でしたか?」
「常識でしょう?」
「そんな常識聞いたことありません」
「まだまだですね」
仕上げとばかりに襟を整えられる。その流れで手をとられ、手のひらに唇をあてられた。
「この意味はわかりますか」
手から口を離さずに、聞こえるぎりぎりの声で問われる。
「勉強しておきます」
「しなくていいですよ」
どこか安堵したように呟いた。
「そろそろ帰ります」
「暗くはないと思いますが、気を付けて」
「そういうところは教師らしいですね」
鍵を外し、立て付けの悪いドアを開ける。
「失礼しました」
「さようなら」
扉を閉める直前、先生はいつものようにひらりと手をふった。
先ほどの行為を思い出し、我ながら女々しい奴だと思う。
定期的に胸に鬱血痕を刻む意味を、あの子はきっと分かっていない。
「キスの意味よりももっと根深いんですよ」
唇は愛情、手のひらは懇願、胸は所有。
鬱血痕は所有の印。
その一枚皮膚を隔てた下にあるものが私は欲しい。愛情も懇願も、その願いを知ったあの子が「それでもいいですよ」と言ってくれるように。
「上手く誤魔化せてますかねぇ」
聡いあの子のことだ。ただの恋愛感情よりたちの悪いそれに、そのうち気づくだろう。
キスの意味に引っ掛けて、私がなにを望んでいるのか。
「最上級の愛情表現ですよ」
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