アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
「夜明けの夢」
-
夜明け前の薄暗い時間に目を覚ました。
夢との境目が曖昧な視界のなか、ぼんやりと浮かぶ白い背中に手を伸ばす。きれいな背中に薄くついた爪の痕を見つけ、指でたどろうとした寸前でぎゅっと堪えた。まだ夢のなかにいるようで、触れてしまえば消えてしまいそうな気がした。
諦めのつかない気持ちにけりをつけようとして、今までの関係が壊れることも覚悟して告白しようとした。
「棗」
やけにはっきりと響いた自分の名前を呼ぶ声。それに込められた意味を読み違えるほど浅い関係ではなかった。
"言うな"
言おうとしていたことを止めたということは、薄々この気持ちは気付かれていたんだろう。
「ごめん、竣」
「棗は何も悪くないじゃん。謝らないで」
悪いのは全部俺だから、そう囁く声が聞こえた気がした。いつのまにか俯いていた顔をあげて、竣の方を見ようとする。
「見ないで」
目をふさがれる。やけに冷たい掌にぞくりとした。
「しゅ、ん?」
「そのまま閉じておいて、ね」
シャツの裾から冷たい掌がもぐり込んでくる。やめろとも、なにするんだとも言えず、ただ冷たさに驚いた悲鳴を飲み込むのが精一杯だった。侵入した指先は脇腹から背中にまわり、上から下へと背骨をなぞる。腰を抱き込まれて、自分のものじゃない温度が重なった。
「て、まわして」
言われた通りに目を閉じたままの状態で、竣の声だけを頼りに腕をそろりと上げて首にまわす。何が始まるのか分からないわけではなく、期待と戸惑いが胸をすいた。ふっと笑う気配のあと唇が重ねられる。
キスをしたらもう駄目だった。
言わせてもらえなかった告白を、言葉をぶつけるように噛みつくようなキスをして、どちらともなく舌を絡ませた。
逃してたまるものかとまわした腕に力をこめて、体を密着させて擦り付ける。
快感を堪えきれなくなって開いた目に映ったのは、見たことがない表情で。そんな顔をさせているのが自分だと思うと余計に興奮した。
体を開く抵抗も押し入ってくる異物感も、それが竣だと思うと嬉しくて仕方がなかった。
ひとつになって熱を交わして、同じ温度になったのに、ただ、竣の手だけは最後まで冷たいままだった。
体をなぞる冷たい指先を思い出して、それが言葉よりも深い拒絶のようで視界が滲む。
「…竣」
大切な幼なじみで、好きな人の名前を呼ぶ。でも、もうどんな顔で、どんな声で呼んでいたのか分からなくなってしまった。
堪えた指先を開き、仄かに赤い爪痕にそっと這わす。
消えない背中にいっそ、全て夢ならともう一度目を閉じた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
22 / 33