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「I love you」
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「最後の夏」の双子の話
夏目漱石のロマンチックで遠回しな告白も、月夜でなければ台無しじゃないのかと思ったのは中学生のころだったっけ。
満月でも三日月でもない、やや太り気味の、横から見たどら焼きみたいな月が空にのぼっている。どんな月を見ても、月は月だ。明るくても雲がかかっていても、満ちていても欠けていても、そこにあるだけ。
「月が綺麗だ」
月なんて見ずに呟いた。
見てないだろって笑われる。
「新は?」
肩に肩をぶつけて、トンって揺らす。
「綺麗じゃないときがないなー」
肩にトンってぶつかられる。二人でゆらゆら揺れて、ぶつかりながら歩く。
だんだん揺れが小さくなって、肩と肩だったのが、腕と腕になって、手の甲がとんとんって触れる。
返事としては「死んでもいいわ」と言うのが定番らしい。
けど、「あなたのもの」なんて俺たちのあいだでは嘘くさい。
やっぱり新はそれを分かっていた。
触れたり、触れなかったり、掠めたりする指をちょんちょんとつつく。触れた指先から意図は伝わる。
こっちを向いた同じ顔にキスをした。
「…誰かに見られるかも」
なんて言いながら今度は新から唇を合わせてくる。
「月も見てないよ」
絡めた指はからめたままで、でも繋ぎ合わせずに、離れないような距離で、また歩き始める。
どら焼きみたいな月は雲に隠れて見えなくなっていた。ふたりして見上げて、ふふんと笑う。
『月も空気を読むんだな』
きっと同じことを考えた。
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