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「カタオモイ」
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何気ない今日のことを話す耳触りのいい声に、好きだなと、日誌を書きながら思う。
ユキの隣の席に座って、だらしなく体を机に伏せたハルは、なんでもない今日のことをぽつぽつと楽しそうに話している。ユキはその柔らかくて温かい声を聞いているだけでトクトクと胸がはずんだ。
そのうち、声がだんだん途切れ途切れになっていって、聞こえなくなったなと思って顔をあげると、ハルは無防備な寝顔をさらしていた。
ぼんやり見つめて、声だけじゃなくて、日に透ける色の薄い髪とか、こっちを真っ直ぐ見る目、ふんわり笑う顔も、ハルだったら全部好きだと思った。
普段は抑えている恋が、ぶわっと広がる。
自分の考えていることに気がついたユキは恥ずかしくなった。ハルが寝ていてよかった。そうでなければきっと、耳まで赤くなっているであろう顔を見られてしまっただろ。
日誌は書き終わったけれど、さっさと起こして帰ってしまうのは勿体なくて、そのままハルを眺め続ける。こんなときくらいしか、ハルを独り占めして、堂々と眺めることなんてできないから。
すっかり秋にかわった風が、開いた窓から吹き込んできた。かすかに香るのは金木犀だろうか。甘いのに爽やかなその香りは、隣の席で眠る幼なじみにぴったりとあって、この時間を特別なものにした。
「……ん」
うたた寝するには風が冷たかったのか、ハルが額にシワを寄せた。
起こさないように気をつけながら、立ち上がってハルの近くに移動する。そろそろ起こしてやらないと、風邪を引いてしまうかもしれない。
「ハル、起きろ」
この時間を終わらせてしまうのが惜しくて、聞こえるか聞こえないかの音量で声をかける。
「なあ、風邪引くぞ…」
小声で呟きながら、枕にされている手を軽く叩いた。肩じゃなくて、腕でもなくて、手だったのは、下心以外のなにものでもなかった。
手を繋いでいた頃の子供の柔らかい手のひらから、大人の男のものにかわった手には、もう気軽に触れることができなくなっていた。
まだ起きてないことを確認しながら、指をするりと撫でる。くすぐったかったのかもぞっと指先が縮まった。それが面白くて、何度か繰り返す。
「ハール、起きろって…」
笑いまじりの声で呼び掛ける。
こんなにされていて起きないなんて、どれだけ深い眠りにおちているのやら。先に提出してから起こしてやるかと、日誌を手にとって教室を出ようとした。
「ユキ、どこ行くの?」
後ろからかかった声にビクリとする。振り返ると、机から体を起こしたハルが寝ぼけた目でこちらを見ていた。
「日誌書けたから、出してくる」
「俺は?」
「すぐ戻ってくるから、待ってろ」
「ん」
眠たそうに目をこする姿に小さい頃の姿が重なり、さっきまでの気持ちがなりを潜め、いつもの足取りで教室をあとにした。
ユキのいなくなった教室で、ハルは椅子に背中をあずけて天井を見上げた。
「あんな起こし方して、勘違いするよ」
指先に、ユキの撫でた感触が残っていて、ハルはひそりと指先を口にあてた。
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