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「冬の花」
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「花火しようか」
あなたのそんな一言で、真っ白な庭に火薬の色が散った。
冬なのに、寒いのに、花火なんて。
色々な思いは、私が持つ細い筒の先から出る火花を見つめるあなたの目に、仕舞わざるをおえなかった。
こんな時期にどこから見つけてきたのか。豪華な花火セットの花火一つ一つに、何を言うでもなく火をつけて散らしていく。
「真っ白な中に、色が散って
静寂の中に、音がはじけて
冷えた空気に、煙が混じって」
あなたが息を吐くと、そこにあることを証明するように空気が白く染まる。
「冬の花火もなかなかオツだろう」
目を細めて、笑う。
そろそろ終いにしようかと言いながら、片付けに入る。
多種多様な花火が貼り付けてあった台紙には、ただ一つだけ、線香花火が残っていた。
カチッとライターを鳴らして火をつける。年が経って湿気ってしまったそれには火はつかず、燻った匂いが鼻をついた。
最期はすべて灰になり、煙となって空に昇る。
あのとき火を灯しておけば、何か違ったのだろうか。
灯は消えた。
零れた何かに、意味はない。
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