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月が綺麗ですね 2
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僕は、佳人から視線を外して、空をまた見上げた。
真っ黒な夜空らに、小さくて、でも力強く綺麗に光る星が辺り一面に散らばっていた。
そこにポツンと、ある大きな満月。
僕は、あるフレーズを思い出し、夜空へ話しかけるようにボソッと呟く。
「……ねえ、佳人。──月が…綺麗ですね…」
それは夏目漱石が、I LOVE YOUという愛言葉を、言い換えたと言われるフレーズ。
本を読まない佳人には、絶対分からない僕の告白だった。
特に深く考えずに、なんかロマンチックだなあと思って言っただけ。
ただ、僕には、こうしてじゃないと佳人への想いを伝えられなかった。
「……………」
佳人は無言のまま立ち上がり、僕の髪の毛に指を通した。
なんだろう、そう思った僕は佳人を見つめる。
何故か今、僕が見ている佳人は、いつもと違って見えた。
いつもの優しい笑顔ではなくて、いつにより真剣な表情で佳人は口を開く。
「──俺も…、翔太と同じこと……思ってる」
佳人はそう言うと、それから僕の目をじっと見つめたまま何も言わなくなった。
一瞬だけ、僕の息が止まったのが分かった。
「……っ、…ただ本当に満月が綺麗って、思ってるってことでしょう」
僕は、この何とも言えない雰囲気に耐えられず、全てを誤魔化すかのように月へ視線を移そうとした。
だけど、そんな僕の行為は虚しく、佳人の両手に顔を包み込まれてそれを阻まれる。
佳人の澄んだ目で見つめられてしまった僕は、嫌でもこの心臓の高鳴りを抑える事が出来なかった。
「翔太。…今は月じゃなくて、俺を見て…」
「なんで…?…僕は月が、…見たいよ」
僕はそう言うなり、佳人の手を僕の頬から解いた。なのに、佳人はそれでも僕の視線を逸らさせないように、強く顔を掴む。
何かがおかしかった。何処かで、ネジが狂ったんだ。
こんなに外は寒いのに、僕の顔が熱いのも。
こんなに外は寒いのに、佳人の顔が紅いのも。
こんなに学校は汚いのに、全部が綺麗に見えるのも。
こんなに心臓が痛いのに、冷静な頭も。
全ては何処かで、ネジが狂ったせいだ。
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