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一度自覚してしまうと、更に会いたいという欲求が強くなった。
せめて声だけでも聞きたいと思うのだが、あいにく連絡先も知らない。
それどころか、住んでいる場所も名字ですらも知らなかった。
そんな状況に、一人頭を抱える。
会ってもらえるのなら、毎日だって通いたい。
無理だってわかっているのにそう思ってしまう。
遠い距離にいることが、もどかしい。
「ボケっとしちゃって。先輩、体調でも悪いんですか?」
瀬戸の言葉に、自分が職場にいることを思い出す。
心配そうな瞳が俺を写していた。
「ああ。ちょっと寝不足でな」
そこまで睡眠不足ではないが、適当に口から出た言葉を発する。
より心配そうな色を濃くした瀬戸は、身体大切にして下さいね、と持っていたコーヒーを手渡してきた。
我儘なところはあるけれど気が利くし、よく人の変化にも気づく。
空気が読める瀬戸は、誰からも好意を向けられる。
生まれ持ったその性格をうらやましいと思う。
「そうだ!この前、いい店見つけたんですよ。
一緒に行きましょう」
こうやって、俺をよく誘ってくれる。
行動範囲の狭い俺をいろんな場所へ連れ出してくれる。
もしも、瀬戸を好きになっていたら。
多分、今みたいに悩むことなんて無かったんだろう。
でも、どっちも男だ。
結局、普通ではない。
何考えてんだかと自嘲して、いいよと返事をしておいた。
一口啜ったコーヒーは、思いの外苦かった。
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