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「八重島さん、」
余所事を考えていたのがわかったのか、瀬戸が声をかけてくる。
「どうした?」
「少し元気になりましたかね」
「うん、なった。今はもう、超元気」
自分で超元気とか言ってみて、無理やり繕ってる感が否めない。
瀬戸は、そうですかと下をむく。
しばしの沈黙のあと、駅目前にして瀬戸が口を開いた。
「八重島さん、」
なんとなく雰囲気でわかる。
先を言わないでくれと願う。
「俺と付き合いませんか。
好きになってくれとかは、言いませんから。」
俺を見る真っ直ぐな目。
その目が、不安に微か揺れている。
目に水の膜が張っている。
今にも泣き出しそうな顔で、でもひたすらに俺を見ている。
瀬戸を傷つけない方法で断りたい。
また食事に行きたいし、話もしたい。
こうやって、連れ出しても欲しい。
どうすべきか頭を悩ませていると、目の端に見覚えのある服が見えた。
一緒にカレーを食べに行ったときにも見た服。
何度も思い出した後ろ姿。
「瀬戸、俺行かなきゃ」
有耶無耶にして終わろうとかは思ってなくて、後できちんと断るつもりだ。
きょとんとする瀬戸に告げて、全速力で駆け出す。
ドクドクと鳴り響く心音。
近づいては遠ざかる人の声。
掻きわけるようにして辿りついた人物に声をかけて肩を叩く。
俺を映したその目が、驚きに見開かれた。
紛れもない真冬本人がそこにいて、嬉しさに涙こみ上げそうになったのをぐっと堪えた。
「なんで八重島さんがここに」
「俺っ、この辺に住んでるから」
息切れで話しにくいことこの上ない。
自分の返答は答えになっているのか、いないのか。
真冬は気にしていないようなので、それ以上は言わなかった。
「それと、この間はせっかくカレー屋に連れて行って頂いたのにあんな態度をとってしまって申し訳ありませんでした。」
深々と下げられた頭を、大丈夫だからとあげさせる。
律儀なところは相変わらずらしい。
ホッとして、また真冬の顔を見る。
夕日のせいか、真っ赤に染まっていた。
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