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昔話.3
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*
夏休みに入って俺が一日中家に居れば、お母さんがますます機嫌を悪くすることは分かりきっていた。
それでも、それだから、俺はずっと家に居る。
母さんが家に男の人を呼びづらいからだ。
お父さんの代わりになる男の人を。
「ああ、面倒くさい。子持ちなんか相手にしてくれる人、あんまりいないのよ?何で、あんたなんか産んだんだか!」
お酒くさい部屋の中、部屋に響くのは、蝉の鳴き声と痛々しい音。
「産まなきゃ良かった!何で生まれてきたのよ!?」
痛い。苦しい。
身体も心も何もかもが、痛い。
痛いけど、もう少し。
もう少しで楽になれる。
もう何日もろくなものを食べていない。
視界も霞んでよく見えない。ただ、痛みと蝉の声が俺を襲う。
陽ちゃんっていつも笑顔で呼んでくれる翔平には悪いけど、俺はもう限界だった。
早く楽になりたい。
もう少しで、俺は楽になって、お母さんも楽になる。こんな素晴らしいことはない。
「お、かあ、さん......ごめ、ごめんね」
お父さんを繋ぎとめられなくて、ごめんなさい。
俺なんかに無駄なお金をかけさせて、ごめんなさい。
お母さんの人生の邪魔をして、ごめんなさい。
生まれてきて、ごめんなさい。
全部、全部ごめんなさい。
前の優しいお母さんはもういないけど、これも俺のお母さんなんだから、俺はこの運命を受け止めるしかない。
捨てられなかっただけ幸せで、最後まで一緒にいれただけ幸せなんだと、そう思う。
「おかあさん......すき、だよ。おかあさん、は......?」
その答えを聞く前に、再びお母さんの足が落ちてきて、蝉の鳴き声がそこで途切れた。
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