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昔話.4
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目を開けると、視界に広がるのは見慣れた天井。
痛い首を動かして横を見ると、お母さんがいた。
「......お母さん、ごめん。俺、失敗しちゃった」
死ねると思ったのに、駄目だったらしい。
お母さんは怒るかな?がっかりしてるかな?
そう思ったけど、お母さんの顔は少しだけ前みたいな顔だった。少しだけ優しい顔だった。
「ごめん。陽。お母さん、もう無理だわ」
「え......?」
「行こっか」
そう言って俺を抱えたお母さんが、車の鍵を持って家を出る。
後部座席に俺を降ろして、お母さんは運転席に座った。
「お母さん?どこ、行くの?」
「前から言われてたんだけどね。見栄はって無視してたの。けどこれ以上一緒にいたら、陽のこと殺しちゃう」
俺が気を失ったのは初めてだったから、きっとお母さんはびっくりしたんだと思った。
嫌な予感がして、帰りたいと何度も言ったけど、お母さんはごめんねを繰り返すだけだった。
しばらくしてついたのは、見覚えのある家。
運転席から出て、後部座席から俺を降ろしたお母さんが、俺の背中を押す。
「お母さんね、この後に及んで、捕まるのは嫌なの。だから、一人で行って」
「お母さん。やだ!やだよ!」
俺は振り返ってお母さんにしがみついた。
お母さんはひどく悲しい顔をして俺を剥がす。
「陽、お願い」
「やだ、やだ!やだ!!」
何度も駄々をこねれば、お母さんは大きな声を出す。
「お願いだってば!!」
「......っ。お母さん.....」
びくっと肩を震わせれば、はっとしたお母さんが俺を抱きしめた。
「ごめん。ごめんね、陽。痛かったよね。苦しかったよね。こんなお母さんでごめんね」
「やだ......やだ......」
「本当にごめんなさい。ごめんなさい」
謝らないでいい。どこにもいかないで。お母さんと一緒がいい。
そんな俺の思いは、お母さんに届かない。
「ばいばい、陽」
そうして俺は、たった一人のお母さんを失った。
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