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出会いと今.2
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「あ?何だてめえ」
「何だもクソもあるかよ馬鹿が」
「ああっ!?」
今にも殴りかかりそうなヤンキーと、それでも冷静な態度をとるその人。その様子はすごくかっこいいけれど、勇敢さは感じられなかった。全く怖がっていないのに、なぜ?
警察を呼んだと言われた途端、ヤンキーはそそくさと去っていった。
安堵から息を吐くと、男の目がこちらを向く。
「おい、怪我は?」
「あ......大丈夫です。ありがとうございました」
「たっく、大声で騒ぐくらいしろ。気付けなかったかもしれねえだろ」
俺の目に溜まった涙を拭い、無愛想に言うその人は、背が俺より高くてつり目ですごく整った顔をしている。どこかで会ったような気もするけど、はっきり分からない。
「あの、お名前って」
「は?名前?」
俺が頷くとその人は面倒臭そうに首をかいて、それでも教えてくれた。
「日比谷陽」
「日比谷......陽......?」
その瞬間、胸がどくんと鳴った。
その名は知ってる。さっきまで考えてた人。
幼い写真の頃からずいぶん変わっているが、言われて見れば面影は残ってる。
そこで分かった。さっきの違和感の理由。
この人は勇敢さを持っていたんじゃない。ただ捨て身だったのだ。自分がどうなろうが、どうでもいいのだろう。だってこの人はすごく寂しそうな目をしている。
この人の幸せを奪った張本人なのに助けてもらうなんて、俺は最低だ。
「何だよ」
黙る俺に怪訝な顔をされてしまい、慌てて我を取り戻す。
「い、いえ何でも。ありがとうございました。迷惑かてごめんなさい」
「ふん。そう思うなら、次から気をつけろよ」
下げた俺の頭に手を置いてから、日比谷陽は去って行った。
彼の後ろ姿を見つめながら思う。
なんで、こんな資格ないのに、胸が痛い。
どうしてこんなにも、また会いたいと思ってる。
このとき、彼の儚さに、不器用な優しさに、俺は心を奪われた。
彼を笑わせたい。幸せになってほしい。
俺が今まで彼の代わりに得てきた幸せを、どうか彼にも味わって欲しい。
こんなの自己満足かもしれないけど、俺が今日助けられたみたいに、いや、それ以上のものを返したい。
この数年間のものを全部彼に返したい。
「日比谷、陽......」
俺は触れられた頭を押さえながら、その背中が見えなくなるまで彼の後ろ姿を見つめていた。
これがあの愛しくて恋しくて仕方がない陽先輩との出会い。そこから俺は先輩に近づくために色々頑張るわけだけど。
彼と恋人同士のになるのはこれよりまだ先の話───。
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