アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
家族.1《リクエスト》
-
*
行く家もなく、どこかホテルに泊まろうとしたけど、あいにくどこも満室で、おまけに雨まで降ってきた。
まさに泣きっ面に蜂。
ただ、不幸中の幸いというべきだろうか。公園に屋根付きのベンチがあったから、そこで雨をしのぐことにした。ついでに朝までここに居ようと思う。たとえフカフカの布団があったとしても今日は眠れないだろうから。
あたりは真っ暗。
自分の心もその暗闇に溶けてしまいそうだ。
なぜそんなに心が沈んでいるのか......まあ、簡単に言うと、妻に浮気されたわけで。しかも、現場を目撃してしまい、挙げ句の果てに別れを切り出されたわけだ。しかも、息子は自分が生んだのだから渡さないと言われた。
「.......ぅ」
こうやって泣いてしまうところが男らしくなくて、妻も嫌になったのかもしれない。
けど、頼りなかったかもしれないが、妻と子供のことは誰よりも愛してる自信があった。
「独りよがりだった、ってことか......」
俺にとっては長く感じた時間でも、多分数分だったんだと思う。泣いている俺の前に彼は現れた。
「日比谷......?」
傘を差したスーツ姿の男。長身で、随分整った顔をしている。
心配したような表情を浮かべている男は、ポケットからハンカチを取り出して手渡してくる。
「......?あの......」
見たことがあるかもしれない。けど思い出せなかった。思い出す余裕がなかった。
けれど、男は気分を害した様子もなく、名を名乗る。
「鈴原だよ。同じ大学だった、鈴原和弥」
「鈴原......和弥......?」
「うん。久しぶり、日比谷」
そう言ってニコリと微笑んだ男は、大学で評判だった、爽やか王子様だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
324 / 343