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家族.2《リクエスト》
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あの後、鈴原に連れられ、家にお邪魔することになった。
「ただいまー」
マンションの一室。鈴原が鍵を開けて、帰宅の挨拶をすると、中からは男の子がとてとてと走ってくる。
「おかえりなさい、父さんっ」
鈴原にぎゅっと抱きついた少年は、これまた随分と可愛い顔をしていて、鈴原によく似ていた。
陽と同じくらいの歳だろうか。
まじまじと見つめ過ぎてしまい、男の子は鈴原の後ろに隠れてしまった。少年の頭を撫でながら苦笑を漏らした鈴原が、口を開く。
「玲って言うんだ」
「......父さん、このひとは?」
玲、と呼ばれた男の子が首を傾げる。
「この人は父さんの友達」
「ともだち」
「あ、えっと、日比谷太樹です。急にお邪魔してごめんな」
「ううん」
にっこり笑った玲くんが、部屋の中に入って行く。
「日比谷、上がって」
「あ、ああ。お邪魔します」
中へ入ってリビングに行く。部屋は綺麗に整理されていて、テーブルの上には二人分の食事が並んでいた。
「叔母さんは?」
鈴原がスーツをハンガーに掛けながら、すでに着席している玲くんに尋ねる。
「さっき、かえった。きょうは父さんのすきな、にざかなだって」
「へえ、嬉しいな」
そのやり取りで、察した。
この家には多分、母親がいないのだろう。
「日比谷、夕食まだだろう?今、用意するから」
「え!?いや、いいよ!悪いし」
「大丈夫。妹がいつも作り置きしてくれてるから」
「で、でも」
「たべよ。たいきさん」
「......」
隣のイスをポンポンと叩く玲くん。あまりにも無邪気で、素直に腰を下ろすと、玲くんはニコニコと今日幼稚園であった出来事を話し始めた。
すぐに追加の料理を持ってきた鈴原も向かいに座る。
「いただきます」
三人で手を合わせて、とりとめのない話をして、笑って。
暖かい、と思った。
この親子はとても暖かい。
「たいきさん。おいしいね」
玲くんの屈託のない笑顔が、陽を思い出させる。置いてきてしまった、俺の愛しい子。
「......ああ、美味しい......」
後悔と、罪悪感と、寂しさと、色んな感情が混ざって、涙を堪え切れない。
涙を拭いてくれた玲くんの手が、とても優しかった。
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