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家族.4《リクエスト》
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*
『痛い、痛いよ』
『どうしてお父さんは俺を置いてったの?』
『自分だけ幸せに暮らして、優しい家族がいて』
『俺は毎日辛い思いをしているのに』
『嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い』
『お前なんか大嫌いだ』
*
「──き。たいき。太樹!」
「わっ。な、何だ。和弥か」
大きな声で起こされ、驚いて目を覚ます。
周りはまだ薄暗い。
「......?まだ寝れるだろ?」
「でも太樹、すごくうなされていたから」
「ああ......」
「またあの夢かい?」
陽に再会した今でも夢に見る。
陽が殴られて、泣いている夢。
俺のことを『大嫌い』と何度も叫ぶ夢。
「......」
無言を肯定と取った和弥が、布団の中で俺を引き寄せた。俺も和弥も、もう40歳を超えたいい大人なのに、未だに頭を撫でられる。
「陽くんだって許してくれたじゃないか。もう怖いことはないよ」
俺があの家を出てから、ずっと一緒にいてくれた親友。
一緒に会社を立ち上げ、苦楽を共にし、恋に落ちた。
陽を不幸にしてしまった自分が、幸せになって良いはずがないから、初めて口説かれたときは断った。それでも和弥はずっと支えてくれて、いつの間にかこんな関係に。
陽が虐待されてるって知ったときも、陽を母親から引き取ったときも、和弥は色々と協力してくれて、すごく助かった。
なかなか陽に会う勇気がなかった俺に覚悟を持たせてくれたのも和弥だし。
本当にお世話になりっぱなしだ。
「......和弥」
「ん?」
「......ありがとな」
理由を伝えることなく呟けば、和弥は柔らかく目を細めた。
「ふふ。どうしたの、急に」
「......い、言っただけ」
なんだか気恥ずかしくて和弥に背中を向ける。すると、後ろから抱きしめられて、耳元で囁かれた。
「今日、陽くんと玲と一緒に食事するの、楽しみだね」
「あ、ああ。楽しみ......んっ」
話を合わせようとした途端、顎を掴まれて振り向かされ、奪われる唇。
「ん......んん、ちょ、和弥っ......?」
「太樹は嘘つきだね。会うの緊張してるから、怖い夢を見たくせに」
「ほ、ほんとに、楽しみだって」
「......素直に言わない子にはお仕置きだけど?」
「......す、少しだけ......でも、楽しみなのも本当」
それはそうだ。愛しの我が息子に会えて嬉しくないわけがない。けど、実は会うのを嫌がられてたら......?まだ心の中で憎まれていたら......?そう思うと怖い。
「太樹のうじうじは、いつまで経っても直らないね」
「う......し、仕方ないだろ」
「うん。可愛い」
「〰︎〰︎っ!可愛いとか言うな!こんなおじさん......」
「何で?可愛いよ。太樹がヨボヨボになっても、可愛いって言える自信ある」
「ば、馬鹿!もう寝る!」
和弥を引き離して布団を頭までかぶる。
未だに付き合いたてみたいな和弥は、絶対おかしい。それにいちいちドキドキしてる俺も俺だけど。
「太樹」
「......」
「たーいき」
「......」
「たいきくーん」
「......っ!うるさいな!」
あまりにしつこくてガバッと上体を起こすと、誠実で優しい瞳と目があった。俺は和弥のこの目に弱い。
「俺は、陽くんのあの時の涙は嘘じゃないって思うけど?」
この目に見つめられると、なんでも大丈夫な気になるから不思議だ。和弥の言葉はストンと俺の胸に落ちる。
「......分かってる」
布団をぎゅっと握りしめると、その手に和弥の手が重なった。
「太樹、愛してるよ」
「な......っ」
「俺はね、太樹も、玲も、もちろん陽くんも、皆のことを大事に思ってるよ」
「そ、んなの.....俺だって」
「うん。俺たちは家族だからね」
家族。
和弥と玲は、俺の不甲斐なさのせいで得られなかった幸せを、俺と陽にくれた。
愛おしい。
その言葉に尽きる。
「......和弥」
「なに?太樹」
「好き」
短いキスを落とす。
情けないことに、これが俺の精一杯の愛情表現。
あとは、いつも和弥がくれる。
「ふふ。太樹は本当に可愛い」
「わっ」
腕を引き寄せられ、和弥が俺の上に跨る。
「......今日、陽たちが来るんだけど」
「うん。でも夕方からだよね」
「......昨晩もシたし」
「うん。でもまたシたい」
いい加減歳なのだから無茶はできない。無茶したら腰が大変なことになる。
けど、今日はなんだか......。
「......優しくしてくれないと困る」
「分かってるよ。まあ、湿布を貼った太樹も可愛いけどね」
「なっ......んっ、んんっ」
この後、俺たちは大変盛り上がってしまったのだが、このことを反省するのはすぐ翌日の話だ。
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