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スーツケースを下に下ろしてから靴を下駄箱に仕舞うとスリッパに履き替えた。
入ってすぐのところにある食堂からはカレーのいい匂いがしてくるが、中には誰も居ないようだ。
壁に貼ってある間取り図を見ると2階の一番奥が寮長室になっていた。
とりあえず寮長に鍵を貰わなければ部屋にも入れない。
土足……厳禁……。
スーツケースのキャスターにけっこう土が付いているから念のため持ち上げて廊下を進む。
2階の一番奥まで進むと片方の角部屋に『寮長室』というプレートが付いていた。
頑張って持ち上げて運んできたスーツケースをうっかり床に置いて土が零れたけど、茶色のカーペットだからバレないはずだ。
「誰か居ますかー」
コンコンとノックをして声を張り上げた。
「はい」
落ち着いた声の返答があってすぐにドアが開かれる。
「!」
出てきた顔は想像していたのと全然違って、驚きで目を見開いたままちょっと固まってしまった。
第1寮の寮長は太っちょのおじさんだったし、見学に行った他の寮も太い細いの違いはあってもおじさんには変わりなかったので、おじさんが出てくるとしか考えていなかったのだ。
「こんにちわ」
「こ、こんにちわ」
顔を出したのは20代半ばぐらいのスラッとした男の人だった。
しかも顔がこれでもかとばかりに整っている。
いわゆる「イケメン」というような華やかなタイプではないのだけどとにかく整理整頓された顔面なのだ。
きちんと切り揃えられた髪も、髭1本生えていない顔面も並々ならない清潔感を後押ししている。
「初めまして。寮長の鈴江です」
「柴田です……」
流麗な所作で頭を下げられて、ちょっと畏まってしまった。
寮長の上品な雰囲気に呑まれてしまったけど本来自分はこんなキャラじゃない。
『おじちゃ~ん、よろしく!』
そんな挨拶しか用意していなかったから、上品このうえない相手に何て挨拶したらいいかわからず何処かに行ってしまったいつもの自分を呼び戻す。
「よ、よろしく!」
「よろしくお願いします」
また頭を下げられてしまった。
それも、ペコリんじゃなくてしずしずと。
ちょこんと頭を下げ返すと、寮長の着ているものに目が留まった。
他の寮のおじさんたちは揃いの作業着に身を包んでいたけど、この人は薄手の作務衣だ。
紺色の作務衣がまたよく似合っていてついつい凝視してしまっていると寮長は照れたように目を細めた。
「一応学校側から作業着が支給されてはいるのですが、私はこの方が動きやすくて」
「そうなんだー」
石鹸の匂いがしてきそうな作務衣はピシッとアイロンが掛けられて、ここでもまた寮長の隙のなさを見せられてしまった。
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