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「お部屋にご案内します」
さっきうっかり置いてしまったスーツケースを持ち上げて床を一瞥した寮長は一瞬だけ眉を潜めたけど何も言ってはこなかった。
セーフっ!
ちょっとホッとしながら先を歩く寮長の後をついていったら、すぐ隣の部屋で足を止めるからぶつかりそうになった。
ここ?
寮長の隣の部屋というのは何かあった時に便利かもしれないけど、品行方正な人の隣の部屋というのはちょっと緊張する。
寮長は部屋のドアを開けて中に入ると、壁のスイッチを押して電気を点けた。
「この部屋がこれから柴田くんの居室となります」
「望夢でいいよー。前の寮長も『望夢くん』って呼んでたし」
これから毎日お世話になるんだから堅苦しいのはなるべく早く取り払ってしまいたい。
「寮長は下の名前何ていうの?」
「ばんりです」
「ばんりかぁ。名前カッコいいね!! 何か中国3000年の歴史って感じで」
「……」
寮長という仕事を適格にこなすためにプログラミングされたロボットのような顔面を人間らしい表情が一瞬だけ通り過ぎた。
ただそれもほんの一瞬に過ぎず、次の瞬間には元の顔に戻ってしまっていた。
「字が違います。長城の万里じゃなくて、朝昼晩の晩に里です」
真面目の化身のような新しい寮長はひとつひとつの会話を四角四面にこなしてくれる。
「望夢くんは以前は何寮でしたか?」
「1寮だよー」
「でしたら、部屋の備品などはほぼ一緒です。お手洗いと浴室、食堂は1階にあります」
今度は浴室の使い方や、食事の時間なんかをこと細かに説明してくれる。
丁寧にひとつひとつ話してくれるんだけれどもなかなか頭に入って来ようとしない。
そんなにいっぺんに言われても覚えきれるわけないじゃん。
朝は何時から何時までで……とか言われても聞いたそばから抜けてしまう。
この先うまくやっていけるのかな……?
細かく細かく丁寧に説明してくれる新しい寮長を見ていると、いつも豪快に笑っていたおじちゃん寮長が何だか懐かしくなった。
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