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傷
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決壊というのは、このことを言うのだろうか。
ユキの目からは、ボロボロと涙が溢れ出している。
一体、何があったと言うのだろうか。
別に怒ったわけでもないし、責めたわけではない。「逃げるな」と言ったのは、何も言わずにその場を去りそうだったユキを見て、咄嗟に出た言葉だ。
ユキの泣き顔を見てると、昔の記憶が蘇る。
僕がちょうど他人に不信感を抱いていた時、ユキが僕との距離を縮めようと、「名前でよんでほしい」と言ってくれた時があった。
今ならアッサリ名前で呼べるのだが、当時はそれにかなりの抵抗があって、「名前でよぶくらいならもうよばない」と言い放ったことがあった。
ユキとはとても仲が良かったし、ユキも仲が良いと思ってくれていた。
しまった、と思った時には遅かった。
ユキはその時、笑っているように泣いた。
そっか。
ユキはそれだけ言って、以後、僕に「名前でよんでほしい」とは言わなくなった。
ユキはその後も変わらず僕と接してくれた。
『ガッくん』と言って、笑うユキの顔が、僕の中学校時代の一番良い思い出だ。
あの時、僕はもう修復不可能な傷をユキに付けた。
今は何故ユキが泣いているのかがまるきりわからない。
でも、きっと僕が無関係ではない気がした。
僕は何も言わなくても、ユキを傷付けてしまうのだろうか。
そう思ったら、自然と身体が動いていた。
自分でも何でしたのかわからない。
泣いているユキに、
僕はキスをした。
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