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ガッくん
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「はい?」
「本当に覚えてないの?」
「すみません。荒木さん酔ってる?」
「酔ってないし、ユキちゃんに荒木さんって呼ばれたくないなー」
酔ってるのではないだろうか。
確かにどこかで見覚えがある顔だが、俺は思い出せないし。なんだが、この人が本気で言っているのか計り知れないから、からかわれてるだけなのかもしれないとも思ってしまう。
ん?……待てよ。
俺の記憶の中で、一人だけ俺のことを、「ユキちゃん」と呼んでいた人がいた気がする。
なんで、思い出せないんだろう……
何でだろう。
俺の中で、その人は温かい黄色みたいな人だったのに……
ぼんやりとしていて、思い出せない。
そんなに昔ではない。
荒木岳?
いや、俺の知り合いにそんな名前の人はいない……
「あ、そっか。ユキは、僕のこと中学で止まってるんだよね」
中学……
「僕ね、今は荒木岳って言うけど、昔は長澤岳って言ってたんだよ。ユキと同じ名字だったから、ユキは僕のこと『ガッくん』って呼んでたんだけど……」
「ガッくん??!!」
ガッくんは、俺の中学の時の一つ上の先輩の名前である。
長澤岳。それが、ガッくんの本名だ。文芸部だった俺の部活内で仲の良かった先輩だ。同じ名字っていうこともあって、下の名前に「くん」をつけて呼んでいたのだが、それがいつの間にか、愛称のガッくんになった。
ガッくんとは卒業以来あっていない。
地元は同じはずだが、高校生になってからガッくんに会うことは何故かなかった。
「ユキ、思い出した?」
「うん!……でも、雰囲気違うから……名字も違うし」
昔のガッくんは、知る人ぞ知る男前だった。今は、見た目でわかるイケメンだけど……
髪の毛も黒髪ではなく、今時の大学生らしい茶色である。
そんなこんなで、話しているうちに駅についた。
「ユキどこに住んでるの?」
電車に乗り込むと、上から覗き込むように聞いてくる。
ガッくん、背高くなったな……
何せ最後にあったのは、お互いに中学三年生と中学二年生の時である。
「S大前駅から二十分くらい」
中学の時、俺達は本当に仲が良かった。
高校を経験した今じゃ有り得ないけど、当時、ガッくんに敬語で話したことはない。ガッくんもそんな俺に何も言わなかったけど、今思えばなんて生意気な態度だった。
「ユキは、大学に徒歩で通ってるの?」
「う……はい」
「……なんで、いきなり敬語になったの」
「だって、ガッくん先輩だし…」
「やめてよ。今まで通りでいいよ、ユキちゃん」
ニッコリ笑うガッくんに、男なのにドキリとした。
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