アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
山眠る ~プレ1
-
人気のない校舎は、本当に寒い。
受付に一人しかいないせいか、静けさが冷々とした空気を増長する。
「…にくん、可児早生君」
「あ、はい」
小さな窓口から事務員が顔を覗かせる。
「大阪から来たの? 郵送でよかったのに大変だねぇ」
「はぁ…俺もそう思ったんですけど、親が不慣れな土地やから、一遍行っとけ言われまして」
「あぁ、そうなの? 迷わず来れた?」
「はい」
母親の危惧も外れ、仮の自宅から迷うことなく、高校に着くことができた。携帯で学校名を入力すれば、駅からの道は容易に分かり、後はホテルまでの帰り道を確認すれば、受験当日の道程は完璧だった。
「そう、それは良かったね。当日も迷わないようにね。はい、受験確認証明書と受験票。無くさないように」
小柄でバーコード頭の男は、混みあっていないせいか、終始穏やかに微笑みながらの応対だった。
「はい、ありがとうございました」
可児は受験票を鞄の中に入れ、校舎の外に出た。
先程までの風は幾分か弱まり、日差しが暖かく感じられる。
正門から事務棟までの緩やかな坂道の両側には、桜並木が続き、春になれば、新入生を歓迎するように鮮やかに彩られるだろう。
可児が、今はまだ裸に木々を見上げながら、来るべき季節を思っていると、正門から別の中学生が、一団となって入ってきた。
団体でいる安心感からなのか、各々が喋ったり、ふざけあったりしている。緊張感のない、賑やかな連中が来たなと、可児は横目で彼等を見過ごそうとして、その中の一際明るい髪をした少年に、目が釘付けになった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 115