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春の章二 霾(つちふる)
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朝から可児はおかしかった。
二日続けて正門前のポールにぶつかり、遊命と会話はするものの、心ここに在らずで、実力テストのことを振っても、「そんなんあったっけ?」と、言う始末だった。
テスト中も答案用紙に向かうことなく、頬杖をついたまま。
テストが終わり、周りが沸く中で、可児は昨日と同じように担任に呼ばれ、遊命と顔を合わさずに、一人で教室を出ていった。
遊命は、可児を目で追いながら、しっくりこない感じに苛立ち始めていた。
──喧嘩したわけじゃない。お願いされただけ。
会話があっても気まずいし、なぜかモヤモヤする。
──上手くいくと、思ったのに。
可児は、見た目を取り上げなかった。
遊命は、何度も繰り返されてきた会話を思い出す。
分かりやすく容姿も欧米的だったら、別の興味が湧くのだろうが、遊命の容姿はいたって日本的だった。色素が薄い以外は。
「それ、地毛?」
その度に、愛想笑いで答えていたが、目立つ風貌は「悪い奴等」に、目をつけられやすかった。
理不尽な言動や暴力は、向けられた方も荒む。
本人にその気はなくても、容赦なく渦に捲き込まれた。
普通の人達の遠巻きの目、遠慮がちの態度。
だからこそ、先入観なく近づいてきた可児の存在は、遊命にとって大きかった。
お願いされたことを守っていれば、いつもの通りになるかと思っていたのに、可児本人が上の空で、モヤモヤが膨らむ。
そのモヤモヤが何なのか分からないまま、遊命は特別教室棟へ向かった。
音楽室からは今日もピアノの音色が流れていて、近づくにつれはっきりとした旋律になっていった。
モーツァルトのピアノソナタ第13番K333第3楽章。遊命には聞き覚えのない曲だった。
「ちぃーす」
遊命は昨日の遠慮がちな態度が嘘のように、部室にでも入るかの如く音楽室に入っていった。
「…遊命」
藍は指を止め、振り返った。少し驚いた表情をしていた。
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