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夏の章三 夏ぐれ
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二人を見ていた日出子が、口を開いた。
「遊命君は、陰性やったん?」
「あ…はい」
「そっか」
日出子は、遊命に微笑んだ。
遊命は、更に強く可児の腕を引っ張り、座るように促した。
可児は、渋々元の位置に戻ると、大きく息を吐き出し、頭を抱え込んだまま動かなくなった。
その頭に、遊命が優しく触れた。
「真人、何でこんなことになったんや? 俺への当て付けか?」
父親の暢宏(ノブヒロ)が、俯く長谷川を覗き込んだ。
「あ…当て付けなんて…そんなこと……」
「何がしたかったんや?」
「……わ…分からない」
「混乱を招きたかったんか?」
「本当に分からないんです。じ…自分でも、何であんなことしたのか…」
暢宏は苛立っているのか、言葉尻は穏やかだが立て続けの質問は、まるで詰責を受けているようだった。
いつもと違う表情と態度。当たり前だ、と長谷川は思った。
それなりのことを、許されないことを、しでかしたのだ。
「おい、何勝手にそっちで、話進めてんのや。俺の話やろ?」
「おまえの話は終わったやんか。陰性で良かったな」
「良くないわ、アホ! 俺の精神的苦痛は、どないしてくれんねん!」
可児がいきり立つ。
汲み取られない怒りが、父親の言葉によって更に拍車が掛かる。
「精神的苦痛って、たかが数時間のことやろ?」
「それが弁護士の言い種か!? 数時間やろが、数十年やろが、苦痛は苦痛や! 俺よりそいつの方が大事なんか!?」
「すみません。俺のせいです。俺があんなことしなければ……、もう、仕事はできません。辞めます」
「当たり前や。あんたみたいな奴が、医療に従事してたら周りが迷惑や。それと、このタイミングで仕事を辞めるとか、どうでもいいし」
父親が溜め息をついた。
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