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春、出会い
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あずませんせい、と呼ぶ声がした。昼休みの職員室。
「ねえ、東先生ってば」
祐樹は採点を終えたばかりの小テストの束を縦にして机の上でトントンと整え、振り向く。
うっすらと見覚えのある顔の女生徒が目と鼻の先に立っている。三つ編みなんかしちゃってかわいーね。彼女には関係のないことではあるが、今朝おかしな悪夢を見たせいで祐樹は機嫌が悪い。
「丸付け終わったんでしょ?どうだった?」
知らねーよ、一人一人の点数なんて覚えてらんねえ。職員室では先輩教師の目もあるので流石にそこまでは言えず、「明日の授業で返すから」とだけ言った。
「ケチ。新米教師のくせに」
「はいはい、用が済んだら教室に戻る」
生徒は「はあい」という緩い返事と共に職員室を後にした。
新米教師で悪かったな、新米高校生。失礼します、とか言えねーの。
この中高一貫の私立女子中高に勤めて今年で三年目、初めてクラス担任となったのが今年の四月。それからまだ一ヶ月も経っていない。公立高校ならば新任の頃から三年も経てば、自分よりもこの学校に長くいます、なんて生徒はほとんどいなくなるだろう。けれど、中高一貫校ではあともう三年も必要だ。そんなに待っていたらじじいになる。特別舐められている気はしないが、生意気な生徒は絶えない、特に四年生(高一)以降の学年には。
生徒が出ていったドアを睨んでいると、先ほどのやり取りをにやにやと見つめていた先輩教師の黒田が声を掛けてきた。
「お前、さっきの子の名前覚えてねえだろ」
覚えてるわけねーだろ、自分の受け持ったクラスの生徒でもない奴。
「えー、やだな、覚えてますよ。佐藤でしょ。田中?」
黒田は顔を顰め、「適当だな」と呟く。
「せめて西園寺とか伊集院とか…」
「あんたもわかってないんじゃないですか!」
ははっ、と声を上げて笑った黒田は、「口の減らないガキだな…」と泣き真似をする。ガキってなんだ、四つしか年齢違わねーし。
予鈴が鳴った。何人かの教師がそれぞれの席から立ち上がる。黒田も「じゃ、また」と言って授業道具を片手に職員室を出て行った。
やべ、何も準備してねえ。
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