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春、再開
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祐樹を支えるため、腰の辺りに添えられていた瀬戸の手に力がこもっている。心配してくれた。助けてくれた。
そんな人物に友達になろうと言われたのに、自分は連絡先を交換し忘れたことであっさりもう一度会うのを諦めた。
今だけ自分が極悪人に思える……。
「熱があるな」
祐樹が頷くと、額に掌を当てられた。動揺して、身を引いてしまう。…何焦ってんだか。
ふと、もしかすると瀬戸は自分以外でも、というより見ず知らずの人間でも助けたのではないかと思った。それはそれで良いのだが、なんとなく気分が落ち込んだ。祐樹が瀬戸の連絡先を田口に訊かなかったのと同様に、瀬戸もまた同じことをしなかったのだ、と思うと余計に。
「病院すぐそこだけど、歩ける?肩貸そうか」
今度も緩く頷いた。
瀬戸は「よし」と呟いて立ち上がる。彼に支えられて祐樹もゆるゆると立ち上がった。肩に添えられた手を妙に意識してしまう。
結局、瀬戸には受付まで付き合ってもらうこととなってしまった。待合室でも祐樹の番が来るまで隣で本を読みながら一緒に待ってくれた。
熱を測ると40度近くあり、それを見た瀬戸は顔をしかめた。
診察室の方から祐樹の名が呼ばれると、瀬戸は本を閉じて「外で待ってる」と言った。働かない頭では意味がよく分からず、「うん」とだけ言って診察室に向かった。
診察室に入ると、これまた見覚えのある人物が待ち構えていた。
彼女はまず岩崎と名乗った。
「お兄さん。いえ、東さんね。今朝ぶりじゃない。お仕事お疲れ様」
今朝のお節介ババ…、いや、親切なおばさん。
医者だったのかよ…。じゃなくて!瀬戸との再開は嬉しかったが、こちらの再開は一欠片も望んでいない。
「まったく、ブラック企業に勤めてると大変ねえ。倒れるまで帰らせてもらえないなんて」
だからブラックじゃねえし。
暫く小言を聞き流し、体調についてのいくつかの質問に答えて診察を受けた。ついでに点滴も打ってもらうと、気分はかなり良くなった。
点滴終わりに再び診察室の前を通った。たまたまドアが開いていて、中から岩崎の声がした。
「お大事にね。ブラック企業なんて、すぐ辞めちゃいなさいよ!」
だから教師だっつってんだろーが!
薬を受け取り、会計を済ませて外に出た。門のところに瀬戸が立っているのに気が付き、近づいた。
「瀬戸さん?」
瀬戸が振り向く。
「待ってたって、知らなかった。ごめん」
「待ってるって言ったんだけどな。別に勝手に待ってただけだから良いんだけど、少し時間かかったね。熱の原因は分かった?」
「点滴打ってもらってた…。ただの風邪。溜まってた疲れが風邪を少し悪化させただけだって」
瀬戸が安心した、という表情で微笑んだ。やばい、ドキドキする…。
「そうか。悪い病気じゃなくて良かった。明日は休みだろう。しっかり休んで、な」
うー、動悸が激しい。高熱にイケメンは心臓にわりーな。
「そーする」
赤面しているのがバレないよう、俯き加減で答えると瀬戸が笑い声が聞こえた。
「やっぱ祐樹くんて、無愛想で可愛いわ」
は?何だよ無愛想って。誰のせいだと思ってんの。あと、あんまり可愛いっていうな。照れるし……。
思わず顔を上げると、笑った瀬戸と目が合ってしまった。やば、眩しい。
恐ろしく整った笑顔の後ろに、真っ青な空が広がっている。
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