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鼠の城(改)・5
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「…分かりました。はい。ではその時に。」
誰かが話す声がしている。
だが身体は動かず目も開かない。
自分は寝かされているようだが、
そこはいつもの固く物だらけの床ではなく、
なんだかフワフワした柔らかい…
…とても気持ちがいい。
でも薬みたいな匂いがした。
初めての感覚だったが不思議と恐怖感はなかった。
次に目覚めた時は賑やかだった。
大勢の声がする。
杏介はゆっくりと目を開けてみた。
今度は少し開く事が出来た。白い壁。白い天井。白いカーテン…
(全部白だ…TVで観た…)
「ゆ、ゆ…き、みたい…」
「杏介!!」
そう叫んだのは真だった。
杏介は家の玄関で意識を失くしてから
丸二日経って発見された。
それも物凄い偶然が重なった結果だった。
杏介が開けておいた玄関ドアの隙間から
室内の異臭が外に出、それに気付いた隣人が騒ぎ始めた頃、
先日の義弟の訪問時に疑念を抱いた真が
豪の家を訪れ 玄関で倒れて意識がない杏介を
発見し病院へと運んだのだった。
「…後半日遅かったら死んでいましたよ。」
処置が一段落した時 、
ICUの外で担当医からそう告げられ真はゾッとした。
杏介の体重は11kg弱に減少していた。
栄養不良状態が続いていたところに
熱中症を起こしていた。
殴られた時に折れていたのは歯だけではなく
肋骨と腕も折れていた。
歯も正確には3本折れていて
1本は左の頬裏に刺さって化膿していた。
病院側は児童虐待と判断し警察に通報、
杏介を運び込んだ真の身元を確認した後に
そう説明した。
「杏介、見えるか?」
「…ぅ」
ちゃんと喋ろうとすると身体中が痛んだ。
「無理して喋らなくていい。私は成瀬 真。
君のお父さんの兄さん、つまり君の伯父さんだ。
ここは病院で君は身体が悪くて入院したんだ。
分かるかな?
分かったらチョッと瞬きしてみて。こうして。」
言って真は目をパチパチさせて見せた。
すると杏介もそれに倣って目をパチパチした。
真はにこやかに微笑み頷いた。
「いい子だな、杏介は。
今はまだ身体中痛いだろうけど
直ぐに良くなるから心配するな。
ゆっくり眠ってればいい。いいかい?」
スーツ姿の真を(TVで見るような人だ…)と
思いながら さっきしたように目をパチパチさせて答えた。
大きくて優しい手が
幾重にも重なったコードやチューブを気遣いながら
杏介の手を小さく撫でる。
「本当にいい子だ。おやすみ…。」
まるでその言葉は呪文であったかのように、
杏介は深い眠りへと落ちていった。
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