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「火星なの......!?」
「正解」
大佐は頷いた。
王子様はゴシゴシと目をこすると、もういちど注意深くレンズを覗きこんだ。
「知らなかった......僕の星、宇宙からはこうやって見えてるんだ……」
自分の星を離れたことのない10歳の少年にとって、故郷の全景はとても興味深いものだった。
荘厳な赤い星は漆黒の背景の中でひときわ鮮やかな存在感を放っている。自分の国の美しさに、王子様は何だか誇らしい気持ちになった。
「あそこに僕のお城があるんだね?」
「そうとも。手を振ってごらん? こっちに気が付くかもしれないぞ」
大佐は冗談のつもりでそう言った。しかし……。
「え、ホント!?」
なんと真に受けてしまった少年は嬉しそうに手を上げると「父上ー! 母上ー!」などと大声で叫び、本気のアピールをはじめてしまったのだ。
おいおい!
これに驚いた大佐は、ずり落ちそうになる少年を両腕で支えた。
ポンポンと腹を叩いて辛抱強くあやしたが、少年の「母上」という声が響くたびに胸に痛みを感じたのは、彼女がすでにこの世にいないことを知っていたからだ。
どんなに大声で叫んでも、たとえ涙を流しても、数年前に逝去した「母上」が少年に手を振り返してくれることはもうないのだ――。
「大丈夫だ。私がいる」
突然かけられた力強い言葉に、王子様はキョトンと固まった。
レンズから目を離すと、不思議そうな顔で大佐を見上げる。
「ソウゲツ......?」
「私がずっと側にいる」
王子様には分からなかった。
どうしてこの人はこんなに切ない顔をしてるんだろう?
もしかして僕が火星にばかり夢中になっていたから、やきもちを妬いたのかしら?
……そんなことを頭に巡らせていると、大きな手のひらに額を撫でられて――。
「あッ……」
ひんやりとした唇に、キスが落とされた。
・・・・・
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