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今さら気付いたけど、なんとソウゲツはせっかく海に来たのにピカピカのドレスシューズを履いていたんだ。これっていつもお仕事に行く時の大切なやつだよね?
「我ながらうっかりしていた。デートが楽しみで、ここまで気がまわらなかった」
「残念だなあ......じゃあ僕みたいに裸足になったら? 気持ちいいよ」
「ふふ、そうはいかないよ。明日はビーチサンダルを買うからな」
ダメかあ......。
あーあ。
一緒に遊べないことが分かった僕はプンっと頬を膨らませる。彼は「ここで待っているから貝殻を拾っておいで」と言って優しく頭を撫でてくれた。
仕方ない。こうなったらソウゲツの分まで大物をとってきてやるぞー!
おぉーっ!
*****
白波ひとつない穏やかな海だ――。
午後になると王子様はいよいよ足を海水に浸して遊びはじめた。
最初は恐る恐るという感じだったがすぐに慣れたようで、バシャッバシャッと跳ねて水しぶきを作っては楽しそうにこちらに手を振ってくる。
そんな姿を見せられたら年甲斐もなく遊びたくなってしまうのだが、なにしろ悪いのは自分なのだから、今日はここから見守るだけで満足することにしよう。
私は食後の一服を楽しみながら砂に手をつっこんでいるあの子の後ろ姿を眺めていた。
ふふっ、早くもズボンが泥だらけになっている。
きっと大人になっても彼はこうやって一生懸命遊ぶんだろうな。
そんなことを考えていると、ふとある疑問が頭をよぎった。
近いうちにあの子の身体は元に戻る。
けれどその時、彼の記憶はどうなるんだろう――?
この期間に交わした言葉や思い出は、私を「おじさん」と呼んだ時のように、あの子の中ですっかり消えてなくなってしまうのだろうか?
煙を吐き出すと視界が霞み、一瞬だけ彼の姿が見えなくなった。
急いで目で追った。
もちろんそんなことは望んでいない。
振り返れば悲喜こもごもの2週間だったが、私なりに全力であの子と向き合ってきたし、何も知らないあの子だって真っ直ぐに私を見てくれていた。
この短い時間の中で私達は恋に落ちて、確かに愛し合っていたのだ。
はたから見れば奇妙だろうが、しっかり「夫婦」だったと私は思っている。
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