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少し寂しいが誰に罪があるわけでもないし、例えあの子が全てを忘れてしまったとしても私が君の分まで覚えていよう。
「(そうだ。それでいいじゃないか......)」
私がずっと覚えていれば。
だから君は安心して、そう、笑っていてくれ......。
*****
さて、それは午後もしばらく過ぎた頃――。
仕事用の通信機がけたたましく鳴るのを聞いた大佐は、相変わらず海が穏やかであることを確認すると、いったんその場から離れて車に向かった。
そろそろ来る頃だと思っていたのだ。
車内に内蔵された通信画面を覗くと、誇らしげに敬礼する部下の姿が映っていた。
「ソウゲツ大佐、休暇中に申し訳ありません」
「構わない」
それは木星軌道線上にて検問の任務についていた二番隊の隊員が、長い航海を終えて本日無事に帰国したという報告だった。
こうした連絡は休みに関わらずよこすように言ってあるから、織り込み済みだ。
部下の言葉に頷くと、大佐は機嫌よく彼をねぎらった。
「ご苦労だったな。今夜は酒でも飲んでよく休みたまえ。奥さんによろしく」
通信を切ると、すぐにテントに戻った。
さて、あの子はどうしているかな?
砂浜を見回す。
「......おや?」
もう一度見回す。
しかし……。
「王子様……!」
見当たらない。
さっきまでその辺を、それはもう楽しそうにかぎまわっていたはずなのに!
大佐は矢も楯もたまらずに砂の上を走り出した。
一気に海岸線までたどり着く。
そこから230度ぐるりと陸を見渡したが、王子の姿はやはりなかった。
「なぜだ!」
行方の手がかりを得ようにも、閑散とした周りには人っ子一人いやしない。
くそう! こんな時に!
あの子の身に何かあったらどうしてくれるんだ!
「ううっ……」
大佐はブンブンと首を振ると自分を奮い立たせるように「おちつけ、おちつけ」と荒々しく呟いた。
あてもなく延々と長い海岸線を探し回る。
どこだ、どこにいるんだ!?
血の気の引いたその顔面には困惑の色が張り付いていた。
私のせいだ。
私がついていながら……リオ……リオ……!
「まさか、な……」
やがて大佐は大きく息を吐きだすと、広大な海へと目線を移した――。
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