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【終章】2
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しくしくと震える小さな肩。
大佐は左腕をまわして抱きしめる。
しかし王子様の泣き声はいつもと違って凛と響くことはなく、押し殺したように控えめだった。
これ以上みっともない姿を見せたくないという彼なりの思いがあるのだろう。
いじらしい。
その様子に胸が痺れるほどの渇きを覚えつつ、大佐はじっと両目を閉じた。
こわれものを扱うように気をつけながら、王子を抱く腕に力を込める。
髪には、深く唇をうずめた。
祭りに向かう人達は皆、チラリと彼らを横目で見たが、そのまま賑やかに会話をつなげて通り過ぎていった――。
*****
少年がひとしきり泣き終えると、大佐は普段通りの口調で話しかける。
「王子様、さっきはすまないな。許してくれるかい?」
少年は赤い目をぼんやりとさせたまま、不思議そうに彼を見上げた。
謝るなら、皆に迷惑をかけた自分の方だと思ったからだ。
「どうして?」と尋ねるように首を傾げる。すると......。
「君のワインを横取りしてしまった」
はじめは何のことだか分からなかった。
しばらくポカンとしていたが、やがてさっきの出来事に思い至ったのか「あー」と恥ずかしそうに顔を歪めるとクスクスと笑いはじめた。
「そうだよ......あれ、僕が注文したやつだぞ」
「旨そうだったからつい。何なら今から部屋で飲みなおそうか?」
大佐のいたずらっぽい冗談に、王子様は「べー」と赤い舌を出してみせた。
それでも、小さな手は嬉しそうに大佐の指を握ったままだ。
二人の間に、いつもの穏やかな空気が流れはじめていた――。
*****
今日は朝から早起きして、車にゆられて、海で遊んで、泣いて笑って......小さなこの子はさぞ疲れたことだろう。
チェックインの時に、ロビーのお祭りで遊ぶ約束をしたけれど、涙が止んだとはいえ目はまだ赤いし、王子が部屋に帰りたいと言うのなら大佐はそれでもかまわなかった。
それに......。
「(私にはもう、君しか見えない)」
ベッドに入ったら、お許し願うのだ。
今夜は抱かせて下さい、と。
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