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【終章】10
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祭りの客達が見守る中――。
大佐は人目もはばからずに床に跪くと、おそるおそる少年の手を握りしめた。
目も合わせられないまま、ひたすら謝罪の気持ちを口にする。
「......お許しください。実に不甲斐ない。私の力不足です」
大佐の言葉に王子様はブンブンと首を横に振ると、同じようにその場にしゃがみこんだ。
「そんなことない。ソウゲツは凄かったよ。周りのお客さんたち、みんな感動してたじゃないか」
「私はただ君を喜ばせたかっただけなんだ。結局あのボールは取れなかった......。君をガッカリさせてしまった」
「そんな風に見える?」
そう言うと王子様は目じりを下げてニッコリと微笑んでくれた。
「ねえ、顔を見せて……。僕、あなたのことを待ってたんだから」
大佐はしばらく黙っていたが 、やがてゆっくりと顔を上げた。
その表情はまだ固く険しかったが、可愛らしい王子の顔を目にしたことで、気持ちは幾分か和らいだ。
しかし、これだけでは収まらない。
小さな王子様の願いを何ひとつ叶えないまま、この夜を終わらせる訳にはいかなかった。
何故なら。
「(君はもうすぐ行ってしまうんだろう?)」
大佐には分かっていた。
10歳の王子様は、明日にでもここを離れて火星の母親の元に帰るつもりでいるのだ。
土産もなしに。
*****
大佐は「ハッ」とあることを思いつくと、すっくとその場に立ち上がった。
「王子様、ホテルのショップを見に行こう! ここはスポーツ用品も豊富に取り扱っていたはずだ。サッカーボールもあるかもしれないぞ。さあ !」
そう言うと、最後の望みとばかりに王子様の右手を引いた。
しかし彼は動こうとしてくれない。
「ソウゲツ、イヤっ......!」
その声に困惑して振り返ると、同時に地面を蹴った少年の身体がふわりと胸に飛び込んでくる。
「そんなの、いらない......僕は......」
緋色の瞳に涙の雫を光らせながら、少年は宝物を抱きしめるようにして嬉しそうに笑っていた。
「早くあなたと二人っきりになりたいの!」
それはまさしく、ずっと大佐が焦がれていた輝くばかりの笑顔だった。
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