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「ん? ああ......」
独り言のつもりで言ったのだが、どうやら聞かれていたらしい。
内心「まいったな」と思いながらも、ソウゲツは咳払いをひとつすると夜の海に目を向けたまま静かに答えた。
「前に私とつがいを結んでいたメスのツバメのことだよ。別れた後も、こうして時どき思い出すことがあるんだ。君だっているだろう? そういう人が。父上や、お城の友達や......」
こんな話は男の子にとってつまらないだろうから、ソウゲツはさっさと話題を変えてしまおうと思い、別の方向に水を向けた。
しかし。
「そのツバメとお別れしたの? どうして?」
どういう訳か、王子様はこんな時に限ってやたらグイグイと攻めてくるのだ。
「子どもが興味をもつ話じゃありませんよ」
そう言って悪戯っぽく睨んでやると、その言いぐさにカチンときたのか、少年はプクッと頬を膨らませると「ふーん......」と低い声で唸り、ギュッと目を閉じてしまった。
その様子を見たソウゲツは可笑しくなって、思わずクスクスと笑い声を漏らした。
「ああ、すまん。怒らないでくれ。簡単なことさ。フラれたんだよ。彼女は私以外の男を選んで子供を作ったんだ」
やれやれ、子供相手にずいぶんと有り体に言ったものだ。
けれど、少し前まで自分の中でタブーだった女の話題に触れても不思議とムシャクシャしないのは意外だった。いま分かったが、自分にとって、あの出来事はもうすっかり過去のことになっていたのだ。
そんなソウゲツとは反対に、王子様は身を乗り出さんばかりに興奮していた。
「フラれちゃったの? あなたが? ウソでしょ?」
「あれを見た時はさすがの私も頭に血がのぼったよ。冬を過ごしたエジプトで愛を誓って、ヨーロッパの巣に戻ってからもこの関係が続くだろうと……私が帰るまで彼女が待っていてくれるものだと勝手に思いこんでいたんだ。しかし現実はそうじゃなかった」
「そんなのひどい! あなたを裏切るなんて、そのツバメの女の子どうかしてるよ! こんなに優しいあなたを傷つけるなんて僕、絶対に許せない!」
珍しく怒りを露にする王子様に、ソウゲツは驚いて顔を上げた。
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