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「君が人間の子でよかった」
「え……?」
「いや……こっちの話だ」
もし仮にこの子がツバメの姿をしていたら、ソウゲツは今の自分の気持ちを抑えられる自信がなかった。
抵抗できない無垢な少年を、たとえ高貴な身分だろうが構わずに両翼で抱きしめて、制御の効かない本能に任せて激しく求めていただろう。
切ないが、この子が人間の像でよかった。
本当に......。
ソウゲツは王子様の肩から徐に立ち上がると言った。
「喉が渇いた......。少しその辺りを飛んできます。すぐに戻ってくるから心配しないでくれ」
「いいよ。だけど、さっきの話が気になるな?」
何も知らない王子様は不思議そうに首を傾げて訊いてきた。
ソウゲツが肩から離れてしまうと、キュッと不安そうに眉根を寄せる。
「それじゃあ、白状しようか」
ソウゲツはそんな少年を安心させるように右の眼の前までやってくると、できるだけ穏やかな声で言った。
「私は、さっきルビーを届けた劇作家の男が嫌いだ。次にどこかで会ったらこの翼で殴り倒してやりたいくらい憎いと思ってる」
「そんな……! いったいどうして?」
「ずっと君に想われていたからだ」
まったく訳が分からないと困った顔をする王子様に、ソウゲツは口角を上げて微笑んだ。
「それだけでも罪状は十分なのに、その上彼は君の瞳を手に入れた。運んだのは私だがね。君は実に残酷なお願いを私にしたんだよ。ここまで言ったら分かるかい?」
「あ……」
「あんまり妬かせないでほしいものだな」
言いながらソウゲツは紅潮が鎮まらない少年の頬を翼でそっと撫でると、今度こそ夜空の散歩へとひとり飛び立っていった。
行くあてはない。
ただ、今はめいっぱい空を飛んでいたかったのだ。
「ふふふ......バカだな。さっきはとんだ言い掛かりをつけたものだ」
王子様が青年に特別な感情を持っているなどと、何の根拠もないことを言ってしまった。少年はただ、この街の人間を分け隔てなく愛しているだけなのに。
もちろんソウゲツにもそれは分かっていた。
しかし、胸に苦しい嫉妬を覚えたのもまた事実だったのだ。
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