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「こんばんは、幸せの王子様......。今日はマッチが全然売れなくて、またおじさんに怒られちゃったの......」
王子様はそんな少女を勇気づけるように頷いた。
「僕、君のおじさんのことを、ほんの小さい子供の頃から知ってるけど、昔からどうしようもない暴れん坊だったんだ。朝から晩まで、君は毎日本当によくがんばってると思うよ」
そして、周りに誰もいないことを確かめると、ナイショ話をするように声を潜めた。
「ねえ、いいことを教えてあげようか? 君の家、裏の台所の鍵が開けっ放しだよ。今夜はもう遅いし、道は暗くて危ない。しばらくしたら、見つからないようにこっそり中に入っちゃいなよ」
女の子は頷いた。
「そうね、港の方に行けば漁師のお客さんが見つかるかしら? 煙草も売れたら嬉しいわ」
"ありがとう、幸せの王子様......。"
そう呟くと、女の子は海の方を目指してとぼとぼと暗い夜道を歩いて行くのだった。
王子様は黙ってその小さな背中を見送った。
「気をつけてね......。せめて、かじかんだ手を温めてあげられたら良かったんだけど」
そんな些細なことすら叶わない。
こうなったら一束でも多くマッチが売れるよう、祈るしかなかった。
そう──、幸せの王子様は街の人のことなら何でも知っている。彼らとは意思の疎通こそできなかったが、まるで家族のように大切に思ってきたのだ。
しかし自分が動けない像であるが故に、今夜のように歯痒い思いをすることが多々あった。
そして、その苛立ちはソウゲツに対する恋心を抱いた時から、ますます大きくなっている。
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