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おはようつじまくん1
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おはよう辻眞くん
辻眞くんと、朝の挨拶。おれの方が早く登校した時は辻眞くんが教室に入るタイミングで。8割がたおれの方が早い。おれは辻眞くんがいつ来るかそわそわしてハラハラして、参考書を読みながら何度も扉に視線をやる。辻眞くんは決まって教室に入って数歩してからおれを見る。するとおれはぎこちなく口角を上げ、それを見た辻眞くんもちいさく顔を和らげる。一瞬だけ視線が絡まったと思うも、辻眞くんはくるりと向きを変えて着席する。辻眞くんは隣の列、4つ前。割と近いと思ってるけど、どうだろう。
登校するとき、下校するとき。あとは教室移動の前。おれたちは目配せで挨拶をする。
ペケ曜日が好きだ。移動教室がめちゃくちゃ多い。1限から移動だ。おはようの挨拶で朝のおれはすごく満たされているというのにすぐ教室移動だ。ドキドキしながら机をあさる。教科書一式を抱えてチラリと見やると辻眞くんが扉をくぐる直前、その目がおれを捉えた。
いつでもおればかりが辻眞くんを見てる。そうして過ごしていると辻眞くんがたまにおれを見てくれる。心臓がきゅんとする。おれたちはその一瞬だけ心が繋がるから。
でも体育前後の着替えのときだけは、辻眞くんがおれを見てる。おれは気になって辻眞くんをチラチラ見たり、見なかったりする。見なくても、きっと今辻眞くんはおれを見てると思うと辻眞くんと視線が合ったときと同じくらいドキドキする。今日は着替えながら何回も辻眞くんを見た。何回も目が合った。ドキドキした。
おれと辻眞くんは両想いだ。おれと辻眞くんはほとんど言葉を交わさない。最後に会話をしたのはノートを提出したときで、辻眞くんが「青崎クン、名前書いてないけど」って教えてくれた。一応の今月唯一の会話……でも辻眞くんとおれは両想いだと思う。この"想い"っていうのはお互いに恋愛感情があるという意味ではなくて、お互いに好意があるという意味。おれの気持ちは恋愛感情に近いけど、辻眞くんのは好奇心と興味だ。でも辻眞くんもおれのことがすき。間違いない。毎日目配せし合って心を通わせてるおれが感じてるのだから、本当に。
辻眞くんと付き合いたいとか、そういう気持ちじゃないのは確かなんだけど、目が合うとドキドキして、次はいつおれを見てくれるだろうっていつも考えてる。話したくないって言ったら嘘だけど、話なんてしなくていい。辻眞くんがおれを見てくれると嬉しい。おれにちょっとマセた笑みを浮かべてくれる辻眞くんを見て嬉しくなりたい。辻眞くんがすき。
これでいいんだ。毎日もどかしいけど。辻眞くんはおれがこうやって焦れてるのも含めておれのことを楽しんでるから。
だからこのままでいいって思ってた、今日まで。
「青崎」
それが、今月2回目の辻眞くんとの会話だった。でもそれは突然じゃなくて予兆があった。ホームルームが終わってしばらく経っても辻眞くんは視線を向けてくれなくて、さよならができなくて、おれはなんとなく帰れずにいた。辻眞くんは友達と話したり、教室を行き来したりとせわしなくしてたけど、人も少なくなってくると席に着いた。昔は目を合わせないで帰る日も、朝の挨拶がない日だって何回もあった。言葉にして約束したわけじゃない。登校時、下校時に必ず目配せをしようだなんて話したこともない。でもおれたちは目と目で何度も繋がってきた。辻眞くんは、いつのまにか誰もいなくなっていたこの教室におれを残すために意図的に行動しているのだとしか思えなかった。
そしてそれは当たる。
「俺の家、こいよ」
辻眞くんが振り返ってにっこりと笑った。はっきり聞こえたそれは間違いなくおれに向けられた言葉だった。あの辻眞くんに首を横に振るなんてことができるはずもなく、動けないでいると、辻眞くんがやっとおれの目を見て帰るよと言った。
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