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知らない彼-新side-
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いつもの匂いとは違う
廉さんでも俺でもない
初めて嗅ぐ匂いなはずなのに
こんなに落ち着くのはなんでだろう....
...頭、撫でられてる....?
...ふわふわしてて、気持ちいい
誰..?廉さん....?
いつもならこんな事しないのに、機嫌いいのかな...
真っ黒な視界が開けて天井が映る
...夢を見ていたのか
さっきまでの至福な時間が消えてしまい、少し虚しくなる
ふと、視線を傾けると知らない顔が目に入った
廉ではない相手に微かな恐怖心を覚える
「.........だれ....」
廉さんの友達かな...
でも、見覚えがない...
「あ、おっ、俺は瀬戸悠...、初めまして...!」
.....うるさい...
初めまして....?
廉さんの友達ではない、のか....?
新は廉にはもちろん、廉の友人にこんな礼儀をもって接さられた事はない
だとしたら、ここはどこだ
寝た態勢のままで、できる限り部屋を見渡す
部屋の家具は少なく、ここが自分の部屋でもなく、廉の部屋でもない事を察した
それにより更に目の前の相手へ警戒心が深まる
「....ここは....?」
学校で俺に話しかけてくるやつなんかいない
ゴミ捨て場に捨てられたはずなのに、こんな所にいるなんておかしい
廉さんの連れの奴らじゃない
正体の掴めない相手への警戒心は高まり、小さな声で問いかける
すると目の前の相手は、深い深呼吸をすると口を開いた
「ここは俺の部屋だよ.....俺、今日転校してきたばっかで...迷子になってた時に君を見つけたんだ。傷だらけの君を放って置けなかった」
放って...置けなかった....?
助けられた、のか...?
「勝手にだけど...傷の手当てもしてあるからさ、シャツは洗濯してまだ乾いてないけど...」
傷の、手当て....
新は布団を捲り、自分の腕を見つめる
確かにそこには清潔な白い包帯が当てられ、制服のシャツは着用していなかった
顔に違和感を感じ、触れたそこには絆創膏が貼られていた
何で....
目の前の奴は何の思いがあるのか、安堵に満ちたような顔に笑みを浮かべている
人助けのつもりか...っ
「...余計な事...すんなよ...っ...」
こんな事されたら、逆に迷惑だ
廉さんに怒られる
こんな親切心なんて....要らない.......
「え...あ、ごめん...」
間の抜けた相手の謝罪の声に胸が痛む
違う、お前が悪いわけじゃない
ただ俺にするような事じゃないから
しかしそれを口に出す事はできなかった
いや、できるわけがなかった
「.....帰る....っ!」
これ以上ここに居たくないと思い、布団を退け起き上がるが、散々殴られた身体は痛みを訴える
今日は久しぶりに長かったからな...
早く戻らなきゃ...廉さんに怪しまれる...
悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、なんとか両足を床につけることができた
「...ちょっと待って!まだ動かない方がいい...っ、休んでた方がっ———」
軽く触れるだけの手に、身体を労られていることに勘付く
俺に優しくなんて...しなくていい...
「俺に....関わるな....」
その方が楽だ...俺も、お前も
なるべく相手の顔を見ないように背けながら、立ち上がった新はふらふらの足取りで歩き出す
一歩足を進めるたびに、至る所が激しく痛む
立つだけでも今の新にとっては大変なことだった
部屋に戻れば、今起きた事は全部終わる..
手当ての包帯も全部取って、廉さんに怪しまれないように...
新はその一心で足を運ぶが中々進めない
その間ずっと横で助けてくれた奴は声をかけていた
関わるなって、言ってるのに
なんで話が通じないんだよ...
身体を労わる神経があるなら、この心情も汲み取れよ...
新の中で苛立ちが募る
「お、おいっ...まだ安静にしてた方がいいって...!」
何度かの声掛けの果てに再度優しく肩を掴まれ、募った苛立ちが弾けた
「触るなっ!関わるなって言ってるだろっ!!!」
振りほどくように手を払い、勢いをつけそいつの方を振り返る
だがそれが仇となり、新の視界はぐらりと大きく揺れた
一瞬だけ黒く染まり視界を奪われたことで平衡感覚を崩し、背中を壁にもたれさせる
さっきまでギリギリのラインで身体を緊張させ歩いていたからか、膝に力を入れることができない
だめだ...立てない....
新がそう悟った時にはもう床に倒れ込んでいた
「...ほらっ..、まだ安静にしてた方がいいんだよっ...!」
しつこく絡んだお前が悪いんだろ...
だが心配してくれているのが分かるから言えない
倒れ込んだ新に彼は手を差し出す
その手を掴むことは、俺にはできない...
見ていて苦しいだけだから、そんな親切心なんて...
「....要らない....かえ、る....」
頼むから、関わらないでくれ...
俺の為にも...お前自身のためにも...
他人に頼る事なんてもうずっと前からしないと決めていた
だけどどれぐらいぶりだろうか
こうやって、廉さん意外と話す機会が訪れたのは
こうやって、自分に気を遣ってくれる人と話すのは
嬉しいなんて思ってしまう反面、それがダメな事だと頭の中で警告音が鳴る
俺は1人でいいんだ...
「要らなくない!!!その身体のまま帰れるのかよ!!安静にしてろって言ってるのになんで聞いてくれないんだよ!!」
彼の戸惑ったように荒げる声が部屋に響いた
ずっとなよなよしてる印象だった彼のその声色に正直驚いた
同時に、自分に対する優しさを痛感する
「あ...ごっ、ごめん...!あの...俺に関わって欲しくないなら話しかけないって約束するから...頼むから....休んで行って....君が辛そうな顔を見るのが、嫌なんだ....」
目を伏せながら彼は小さく呟く
縋り付くように申し訳なさそうに
違う、悪いのはお前じゃない....
それに確かにこの身体のまま自分の部屋に戻れる気がしない
途中で倒れてもきっとこいつみたいに助けてくれる人なんてもちろんいない
廉さんに便乗する誰かにまた痛い目にあわされる可能性だって少なくない
だとしたら、ここにいた方が安全なのか...
でも、部屋にいないと廉さんにバレたらどうしよう
...少しどこか静かな場所で休んでいたと、そういう事にしよう
何を取っても今はここで休んでいた方が安全圏だと思った
「...手、貸して...」
小さく、小さく呟く
誰かに頼ることが久しぶりで声が震える
警戒心や恐怖心で潤む新の目に、嬉しそうに微笑み大きく頷く悠の笑顔が映る
その顔に心の奥が、キュッと淡く痛む
嬉しいなんて思ってしまっている自分がいる
いやダメだ
今だけ、今だけだから
こいつと話すのもきっとこれが最後だ...
あの日からずっと1人だから、きっとこの先だって大丈夫
「....お前の言う通り、部屋まで戻れる気がしない....ちょっと休んだらすぐ行くから.....」
冷たく素っ気ない態度で新は壁を作る
これ以上こいつが俺との距離を縮めて来ないように
休むだけ、今だけの関係を強調したつもりだった
「うん、大丈夫だよ....ずっといててもいいよ?」
...そんなんじゃない
彼の優しい言葉に先ほどから胸が淡く痛み、切なくなる
振り切るように無視し、ベッドまで肩を借りた新は横になる
布団を掛けてもらい寝付こうとした背中に声がかかった
「あ、あの....君の名前....聞いてもいいかな..?」
彼の顔を一瞥し、顔を背ける
教えたりしたら友達...なんて思われたりしないよな...
「あ、ごめん!話しかけないって約束だったよな、ごめん...」
二度も謝られ、何も悪くない彼に対し申し訳なくなる
名前くらい...別にいいよな...
みんな知ってるし、隠す必要もない
「.....米倉、新.....」
誰かにこうして名前を教えるのもいつぶりだろうか
もうきっと呼ばれることはないだろう
「米倉、新....っ。いい名前だな!俺は瀬戸悠、悠って呼んでくれな!」
....いい、名前....
....嬉しい....
貶されてしかいない世界の中で生きてきた新には、彼の言葉はよく響いた
だが求められた握手を返すことはできなかった
悠....覚えておこう....
返事も返さず心の中に留めておき、新は眠りにつく
包まれる布団の香りは悠のものだったんだ...
落ち着く理由も何となく、わかった気がする....
忘れたくないなぁ......この匂い......
新は悠の匂いがする布団に顔を埋めながら眠りの世界に意識を落とした
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