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登校
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誰かと楽しそうに話している
これは、俺...
こっちは...誰....?
俺は誰と話しているんだろう
廉さんじゃない
目の前の彼の声が、笑顔が、輝いて
胸が踊るようなこの感覚はなんだろう
『おい、新』
...廉さんの声
振り返るやいなや、顔を殴られる
やめて、と縋るような俺の声はいつだって廉さんに届かない
耐えて、謝って、怒りが収まるまでは止まらない暴力の雨は身体に降り注ぐ
『お前は誰の物だ?』
蹲る俺にいつもの問いかけをする
答えなんて知ってるくせに
俺に選択権はないのに
『...俺は、廉さんの物、です...』
「....——っ!!」
悪夢から解放されると同時にベッドから起き上がる
心臓が壊れてしまうんじゃないかと思う速さで鼓動を打つ
全速力で走ったかのような息切れは、余計に苦しさを煽る
今日もまた嫌な夢を見た
ため息を漏らしながら頭に手を当て、くしゃっと髪を握る
夢に出てきたあいつはたぶん...
でももう、俺はあいつに関われない
関わってはいけない
傷付けることがすでに目に見えるから
心の中で辛い決心をして、学校へ向かう支度をする
顔を洗い、制服に着替える
袖を通すシャツは綺麗に畳まれ、アイロンをかけてくれたのかシワひとつ無かった
そして、悠の匂いがした
布団からも香ったこの匂いに、再び包まれることに嬉しくて抑えられない笑みがこぼれる
これくらいは、大丈夫だよな....
もう関わらないし、洗濯すればこれも消えてしまう
いっときの幸せくらい...
そんな思いを抱えたまま部屋を出る
鍵をかけて歩き出す新の視界には、準備を終え登校する生徒がぞくぞくと映る
待ち合わせしている者や、偶然時間が重なったのか楽しげに会話する者、昨日のテレビの内容について談笑する者
全部新にはないものだった
下を俯いて、重い足で教室まで向かう
道中に響く声や、集団で歩く生徒らへの羨望の思いは
いつからだろうか、もう抱かなくなっていた
俺は1人でいい
1人がいい
そんな言葉を自分に言い聞かせていたら、それが当たり前になってしまっていた
だからこそ、悠の言葉や存在が怖かった
やっと確立してきた孤独の居場所を脅かされる事への恐怖と、向けられた優しさに歓喜してしまう自分への恐怖
手に入れたものを失う恐怖
人を傷つけてしまうのではないかという恐怖
様々な恐怖心を抱いているからか、穏やかな日々なんて到底過ごせなくて毎日生きているのが苦しかった
教室棟に着き、階段を登っていく
三階が二年生の普通教室だ
すれ違う生徒らは人によって新への反応がそれぞれ違う
新を見た瞬間に気まずそうに去るものや、会話を止めて息をひそめるようにするもの
そういう人は、大体が元々友達と呼べる存在に近い人ばかりだった
でももうそれも慣れた
どちらかというとまだマシな方だ
新が苦手なものは廉に便乗してくる人たちだった
自分の教室に着き、入室するや痛い視線が刺さる
それでも下をうつむき、窓際の一番隅にある自分の机まで足を進める
その時、席に座っていた1人の男子が新に足をかけた
「——っ!」
前のめりになって転びそうになる身体を支えようとする新の背中を違う男子が突き飛ばした
——ガターンッ!
どうにか手は出せたが床へ思いっきり身体を打ちつける
「...っ、はぁ...」
「あ、悪ぃ悪い、俺足長いからさ〜ごめんね〜?」
足をかけた生徒はふざけた口調で平謝りをする
昨日の廉からの行為もあり、身体はボロボロだった
起き上がる事さえ辛い
歯を食いしばって立ち上がろうとする新を嘲笑の声が包む
「なにそれ、生まれたての子鹿かよ」
「頑張って〜新くぅん」
煽る言葉やあざ笑う声に、反応しないように立ち上がる
新が苦手なタイプ
それは廉に便乗して、自分を虐めの標的にしてきた奴らだった
そういう奴はほぼ廉を慕い、その下で動いているようなものばかりだった
廉がそれを黙認しているのかは分からないが、身体中痣だらけなのだからそれが見つかる事は考えにくい
痛む身体で席にたどり着き、ちらりとそいつらを一瞥する
くつくつと笑いながらこちらを見ているがそれだけで、群れをなして教室の外へ出て行った
煩かった室内に静けさが漂う
殴られたりするより、穏やかな時間を過ごすのが当然好きだ
窓の外へ目を向けながら、今日という一日が早く終わることを願った
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