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歩との出会い
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「それじゃあ、各々準備をして試合を始めてくれ」
教科担任はバレーボールを片手に説明を終えると、ピッと笛を鳴らした
それを合図に生徒らは解散し、コートの準備や籠に入ったボールなどを倉庫から出す
今日はバレーボールをするみたいだ
だが制服姿だと授業に参加することもできない
端の方で座ろうと足を進めていると、目の前をあの子が通りすぎって行った
体育着なのにどうしたんだろう、と視線を送っていたら、教官室に入っていくのが見えた
暫くして戻って来たその子は悠とは少し離れた位置で、端の方に腰を下ろした
さっきあんな風に言われた悠だが、どうしても新の事や彼が気になり、思い切ってその子の元へまた足を進めた
悠の気配に気付いた彼は怪訝そうに顔を顰める
「....何...。何の用...?」
近寄って来た悠へ小さく問いかける
体育座りをしている彼の隣へ座り、目を見つめる
「さっきは急にごめん...。あの、俺、本気で君と友達になりたいんだ。何か嫌な思いさせたなら謝るから...。」
毛嫌いされているのが分かるので、どういう風に彼に話を切り出したらいいのか分からない
だけど自分から声を掛けなきゃ、きっとこの先彼から声をかけてもらえることはないだろう
「......別に....。」
そう言いながら彼は目を逸らし、背を丸めて座り直す
「君の名前、教えてくれないかな...?」
悠の縋るような声に少し動揺したように、目を泳がした
「ダメかな....」
いつかの新の姿と彼の姿が被り、二の舞になってしまったかと後悔する
「.........神谷...歩....」
かなり間が空き、加えてとても小さな声だったが、歩と名乗った彼は返事を返してくれた
「....あゆむ、歩っていうのか...!教えてくれてありがとう!」
名前だけでも教えてくれたのが、仲良くなれる一歩を踏み出せた気がして心の底から嬉しかった
「...うるさい....キモい...」
言葉は尖っているが、歩の声は比較的穏やかで、角が立つものではなかった
ここから歩と友達になれる一歩を積み重ねていこう
「ねぇ、歩。さっきもちょっと言ったけど...新の事、色々教えて貰えないかな...?」
だが、悠のその言葉に歩の目の色が変わる
「....俺が聞いた事、答えてもらってない....。なんであんたが新を知ってんの....」
ムッとした表情に変わった歩は少し鋭い目つきで悠を睨む
その言葉と目つきに悠は息を呑むが、慎重に返答するために深呼吸をする
「昨日、職員室を探して迷子になってた時に新に出会ったんだ。たくさんの人に...殴られてて...すごく辛そうで...」
その時の回想で胸が苦しくなる
頭の中で整理をつけながら話を進める悠を、歩はじっと見つめて聞いていた
「助けることも出来なくてさ...自分の無力さに、自分で自分が嫌になった...っ、殴ってたやつがいなくなってからしか行動できなくて...」
ぎゅっと拳を握る
それはあの時、初めて新を見た時のこと
助けることも出来ない自分への怒りで握った拳と同義だった
「だから、決めたんだ。みんなから無視される新を俺が守るって...!」
悠の目の奥に込めた思いと力強い言葉に、歩は下唇を噛む
「....新と...話したの....?」
呟く言葉は震えていた
さっきまで睨みを効かしていた目から一転し、驚いたように丸くなっていた
「...話したよ。でも....新は何も教えてくれなくて...俺に構うなとしか.......でもきっと——」
”新は誰かの救いを求めてる”
そう言おうとしたのだが
「新が構うなっていうなら話しかけなければいいだろ...っ!」
歩の静かな怒声に言葉を断たれた
急な態度の一転に頭がついて行けず、呆然と顔を見ていると、唇を噛みながら歩は立ち上がった
「...新が1人を望むなら、関わらないのが彼のためだろ...!何で、あんたも彼を苦しめようとするんだよっ...!!」
歩の悲しげに歪む顔に、昨日の新の顔が重なる
なんで、2人ともそんな悲しい顔をするのだろうか——
「それは違うっ!新は何かを隠してる...っ、1人になりたいなんて嘘だ...!歩もそう思うだろ...っ?」
「——っ!」
反論された歩は言葉を詰まらせ目を背ける
だがすぐに目つきを尖らせ悠を睨むと、口を開いた
「何を根拠に違うって言えるんだよ...!転校してきたばかりのあんたに...何が分かるんだ!」
「根拠なんてない...でもそう思っただけだ...!だから...分からないから歩に聞いてるんだろっ!」
悠も立ち上がり、食いかかるように歩へ言い返す
新を知っていると言うなら教えて欲しい
クラスのみんなが知らない彼を教えて欲しい
そして一緒に、彼を守りたい
ただ、それだけなのに。
なんで歩まで何かを隠したように教えてくれないのか、理解できなかった
「...——っ!うるさいっ!新にも...俺にも関わるな!あんたは部外者だろ...クラスのみんなと仲良しごっこでもしてろよ...!」
一方的に歩はそう言い放ち、その場を去ろうと体の向きを変えた
悠はその腕を掴み止める
「待って...!まだ話してる途中——」
「離せ...っ!俺はあんたと話す事なんかない...!」
大きく腕を振り、悠の手を払いのける
困惑を隠せない悠を睨む目は、泣いてるのか潤んでいた
それを目の当たりした悠は動きが止まる
歩が涙を流す理由が分からなかった
「....人の気も知らないで....っ...」
振り返りその場を離れる歩の背中を見つめるだけで、動くことも出来なかった
歩も新も、何を考えているのか分からない
体育館の中には授業を楽しむ生徒の声が響き渡っていた
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