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思わぬ偶然
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体育の授業が終わり、悠との一件もあってか、気分が重い
着替えを誰よりも遅く終え、気付けば更衣室に一人だった
ベンチに腰掛けながら溜息をつく
悠に新を取られたくない、か...
そう思ったのは自分だけど、新は自分と話す事すらしてくれない
全然、自分のものなんかじゃないのに...
転校生だからこそ、新の気持ちを知らずに話しかけられたのかもしれない
でも先を越された事実は存在するわけで
なんとも言えない感情がグルグルと胸中を駆け巡る
精神的に参ってしまい、もう授業にでる気力もなかった
今日は部屋に帰って、ゆっくり休もう...
そう思って体育着を片手に更衣室を後にした
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寮棟へ向かう歩を誰も止めることはなかった
歩自身もそれが楽だから特に気に留めることはなかったが、歩に友人がいないという事実が垣間見れた
暫く歩いて辿り着いた寮の階段へ向かう
寮棟はA棟とB棟に分かれており、中央に階段を設け右と左で区別されている
それぞれA棟とB棟の端にも階段が設けられてはいるのだが、外階段となっている為、利用者は少ない方だった
だが歩はあまり人とすれ違いたくない事もあり、外階段を利用する事がほとんどで、今日ももれなくそうだった
3階まで階段を使う事はやっぱり面倒くさい
1階を登り終えただけで、歩は息を乱す
スポーツとかはもちろん得意じゃないし、身体も体格がいい方ではなかった
痩せ細っているわけではないが、典型的なインドア派だったので体力はほぼほぼ皆無だ
やっと2階に到着し、少し呼吸を整えて3階へ向かう足を進める
そんな歩の視界に、人影らしいものがチラついた
嘘でしょ...なんでここを通るんだよ....うざ...
そう思いながら踊り場付近に佇む人影を一瞥した
歩の目が小さく見開かれる
そこにいたのは新だった
新も驚いたように目を丸くして、歩を見ている
両者とも足を止め、見つめ合うように目が離せなかった
その間になんとも言えない気まずい空気感が流れる
新の顔に浮かぶ痣と傷に、悠が殴られていたと回想して語っていた事を思い出す
やっぱり俺は、新を守ってなんかいないんだ——
味方ぶって何もできてない
新は傷を見られた事に気付いたのか、顔を逸らし、先に動き出す
追い越すように横を通るその腕を歩は咄嗟に掴んでしまった
動きを止めた新の悲しげな目が歩を振り返る
掴んだのはいいが、何と声をかけたらいいか分からない
久しぶり過ぎて、新に会えた事が嬉しくて
でも新が俺を避けているのが分かるから、口を開くのは容易じゃなくて
掴んだ手を緩めず、キュッと柔く力を込める
「....離して...」
掠れて小さな声がポツリと落ちる
新は振りほどく事はなく、離すように歩に告げた
それは新のささやかな優しさなんだと悟る
振りほどいてもいいのに....
歩は下唇を噛み、こんな時でさえも、何もできない自分の無力さに顔を顰める
だが新の言われた通り、握る手を離す
離したくなんかないけど、歩にはそれしかできなかった
「.......ごめん....」
手を引っ込めた新は下を俯きながらそう呟くと、ふらついた足取りで階段を下っていった
その寂しげな背中に声をかけることも出来なくて、姿が消えるまで歩はただ見るだけしか出来なかった
そんな自分が嫌になる
部屋まで走るように足を動かす
体力がないなんて嘘とは思うほどのスピードで、駆け出す歩の目には涙が潤んでいた
俺だってあいつみたいに、新の気持ちなんて考えないで、想いを伝えられたら....っ、
逃げずに向き合うことができれば....!
『.......ごめん....』
新の声が頭の中で流れる
腫れてた新の目...きっと泣いたんだ...
違うよ、新。
悪いのは俺の方だ。新の味方面して、俺も新を傷付けてる。
ごめん、ごめんなさい...
部屋に到着し、玄関の中に入った瞬間にその場に蹲る
とめどなく溢れる涙が頬を濡らし、シャツの袖に幾つものシミを作る
俺よりも辛いのは新の方だけど、俺も、辛い
部屋に広がる悔しそうな泣き声は、誰に慰められる事もなく、
ただ響いて、歩に返るだけだった
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