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無視される存在
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「くっそー...何で朝っぱらからゴミ捨てなんて行かなきゃなんねぇんだよ」
男子生徒の声が聞こえ、悠は踏み出しかけた足を止める
少しだけ顔を覗かせた先にはゴミ袋を持った男子生徒と、後ろで手を組む女子生徒がいた
「あんたが昨日サボるからいけないんでしょ、私までとばっちりなんだからちゃんとしてよね」
不服そうな女子生徒は小屋に近づくと扉の鍵を開けてあげた
中には傷だらけの彼がいる
俺より先に助けてくれる人が出てきてくれてよかった....
転校初日で見知らぬ自分に助けられるよりは、幾分かはマシだろう
そう思って暫くその生徒らを伺っていると、ゴミ袋を捨て終わった彼らはそのまま小屋から出てきた
そして何もなかったように扉を施錠する女子生徒
...え?何で.....?
「私は部活があるから先に帰るって言ってあったでしょ、今度捨ててなかったら日直の仕事全部あんたにやらせるからね」
「ひい、それだけは勘弁!次は気をつけるからさっ!」
手を合わせて謝る男子生徒を横目に、怒っているのか彼女は足早にその場を去っていく
二人は本当に何もなかったように帰っていった
何で、彼を助けてあげないんだ...?
悠は周りを気にせず、駆け出すと小屋の鍵を開け中に入る
その中は少し薄暗かった
生ゴミのようなキツい臭いはしないが、やはりゴミ捨て場独特の臭いはいい気分がしない
奥に広いその小屋の中を歩いていると、人間の足が目に入る
彼だ...!
見つけた彼の上半身にはゴミ袋が無数に積まれており、顔だけが少しだけ出ている状態だった
その光景に言葉を失った
さっきの生徒たちの仕業だろうか
それとも彼を殴り続けたあの生徒たちの仕業なのか
彼は何でここまで酷いことをされなきゃいけないのだろうか
悠は暫く立ち尽くしたままだったが、我に帰った様子で慌てて彼の元に駆け寄る
身体に覆い被さったゴミ袋を全てどけると、暗くて見えずらいが彼の顔をやっと見ることができた
口の端から滲む血、額や頬には擦り傷などが見られた
痛々しい彼の姿に顔が引き攣る
だけど、俺が助けなくちゃきっと誰も助けてくれない
どうしたらいいのか分からず、そっと彼の肩辺りに手を伸ばし軽く揺する
死んでないかと内心恐怖に怯えていた
「君...大丈夫...?ねぇ....っ、」
大丈夫なわけがないことくらい悠自身大いに知ってる事だが、何て声を掛けたらいいのか分からない
再度ねぇ、と困惑したように呟き彼の肩を小さく揺らす
「...ぁ”...っ......」
小さな彼の呻き声が耳に入った
...良かった、生きてる....!
悠は生存確認ができたことで、一定の安堵を得る
「今助けてあげるからねっ...」
悠は彼の身体を抱き上げ背中に背負う
その体重は男子高校生にしては少し軽い気がした
まだ意識がない彼の時折呻く声を聞きながら小屋を出て歩き出すが、保健室がどこか分からない
とりあえず足を進めて目に入った校舎の中に入る
窓がなく、扉だけの部屋が立ち並ぶそこを歩いていると運良く保健室と書かれた部屋を見つけた
良かった..!
「もう大丈夫だからね...」
背中で意識のない彼にそう告げると、保健室の扉を開けた
音に気付いた白衣を付けた女性の先生がこちらに顔を覗かせた
ゆっくりとした足取りでこちらに近寄る
「どうしたー?....あら?見ない顔ね...」
「あ、俺、今日転校してきた瀬戸悠って言います。あのっ、俺じゃなくて彼を診て欲しくて...」
悠は不審がる先生に軽い自己紹介をすると、背中に抱えた彼を見せる
「集団の中で殴られてたんです...っ、あっちこっち怪我してるんで早く診てあげてください!」
そう言いながら保健室の中に足を踏み入れる
「無理よ!!!」
急に険しい表情を見せ、声を荒げながら叫ぶような先生の言葉に悠は固まる
「....えっ...?」
「..い、今は手が離せないの...だから無理なの、ごめんなさいね」
取り繕うとする先生は目を泳がせそう告げると、奥の方に戻ろうとした
「無理って...何でですかっ、彼はこんなに傷だらけなのに、手が離せないなんてそんな...手当てしてくださいっ!」
悠は先生に向かい何とかお願いしてみるが、こちらに来ようともせずただ手を組み、目をそらし、無理だと告げられる
その姿に苛立ちが募る
「何で...何で皆彼を無視すんだよ!!あんたそれでも教師かよ!何のためにここにいんだよ!」
一方的に殴られ、生徒に無視された上に、先生にさえ相手にしてもらえない
みんな、狂ってる。
悠の言葉に先生は驚いたような顔に悲しい影を落としながら下を俯く
先生に向かいこんな言葉を使った自分を責めるつもりは一切なく、彼女が悲しい顔をしてみせる意味が全く理解できなかった
辛いのはお前じゃない、彼の方だ
「...もういいです。彼は俺が手当するんで...それじゃ失礼します」
怒りを灯した口調でそう言い放つと保健室を出る
わざと音を立てて閉めるとその校舎を出た
自分で手当てするとはいっても自分の部屋が分からないことを今になって思い出す
どうしよう....
彼を早く安静にさせてあげたい
悠は当てもなくとりあえず校舎から離れるように今まで通っていない道に足を進めた
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