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知らない彼 -悠side-
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助けてくれた男性が出て行った後、すぐに悠は彼の元に座り込む
手当て後の彼の顔はどこか穏やかに見えた
だがそれでも顔に浮かぶ生々しい傷跡が目に付く
手当てしていた時から気付いていたことだが、あまり顔自体には傷は無かった
口の端や、額、頬に少しの腫れや傷がある程度で、殆どが上半身を中心としたものだった
やはり顔は目立つからだろうか
そんなことを思いながら見つめている彼の顔は、とても端正な顔立ちだった
眼を開けた顔も絶対にかっこいいんだろうなぁ...
「....って、俺は何を考えてるんだ。彼は怪我人だぞ、邪なこと考えてる場合じゃない...」
早く目を覚まして欲しい
聞きたい事も話したい事もたくさんあるから
何となく、頭を撫でるように手を軽く置く
すると彼は小さな吐息を漏らし、ゆっくりと目を開けた
焦って手を引っ込めるとぼんやりと宙を眺める目が悠を捉える
「.........だれ....」
初めて聞く彼の声は少し掠れていたが、低くすぎず、高すぎず、心地よい声だった
「あ、おっ、俺は瀬戸悠...、初めまして...!」
なんて話そうかなんて考えてなかったから、テンパってしまい切羽詰まった返答をしてしまった
彼は悠の言葉に少し怪訝そうな顔をしてみせた
そして自分の寝ているベッドや部屋を見渡し、再度顔を見る
「....ここは....?」
静かな問いかけに悠も落ち着こうと一旦深呼吸をする
「ここは俺の部屋だよ.....俺、今日転校してきたばっかで...迷子になってた時に君を見つけたんだ。傷だらけの君を放って置けなかった」
彼の目が小さく見開かれる
「勝手にだけど...傷の手当てもしてあるからさ、シャツは洗濯してまだ乾いてないけど...」
悠の言葉を聞き、彼は布団を捲り、腕に巻かれた包帯を見つめる
顔に手を伸ばし、絆創膏などが貼られた傷に触れる
驚いたような顔で自分を見つめる彼の目が悲しげな影を灯したのに気付く
不思議に思ったその時には、彼の口から予想だにしていなかった言葉が告げられる
「...余計な事...すんなよ...っ...」
彼は右手で拳を作り、口を一の字に結ぶ
「え...あ、ごめん...」
悠は展開にまだついていけず、とりあえず謝罪の言葉を呟いた
そんな言葉を言われるとは思っていなかったのは勿論そうだが、悲しい眼をしたはずの人が言う言葉ではなないと思ったからだ
「.....帰る....っ!」
彼は小さく呟くが、起き上がった直後に背中を丸め、苦痛に顔を歪める
それもそうだ、さっきまで殴られていたんだから
痛みをこらえ尚、ベッドから降りようと体を動かす彼の肩を優しく掴み引き止める
「...ちょっと待って!まだ動かない方がいい...っ、休んでた方がっ———」
だが彼はその手を払う
「俺に....関わるな....」
まただ
なんでそんな悲しい目でそんなこと言うんだよ
強がらなくていいのに....っ。
手を払った彼は痛む身体を堪え立ち上がると、壁を伝って歩き出す
「お、おいっ...まだ安静にしてた方がいいって...!」
悠の言葉を無視して足を進める彼に、何度も声をかける
再度肩に手をかけたその時、
「触るなっ!関わるなって言ってるだろっ!!!」
彼の怒号が部屋に響き、手を払いながらこちらに勢いよく振り返る
その瞬間、彼の身体が傾き、背中を壁につけもたれ掛かる
そのまま膝を曲げ、ずるずると倒れ込んでしまった
「...ほらっ..、まだ安静にしてた方がいいんだよっ...!」
側に寄りかかり手を差し出すが、潤ませた目で見つめるばかりで手にさえ触れてくれない
「....要らない....かえ、る....」
何度も断り続ける彼に対し、徐々に憤り感じ始める
たくさん耐えてきてると思うから
せめて俺の前では強がらないでいてほしい
「要らなくない!!!その身体のまま帰れるのかよ!!安静にしてろって言ってるのになんで聞いてくれないんだよ!!」
思わず大きな声を出してしまい、はっと我に返ると彼の驚いた
目と目が合う
「あ...ごっ、ごめん...!あの...俺に関わって欲しくないなら話しかけないって約束するから...頼むから....休んで行って....君が辛そうな顔を見るのが、嫌なんだ....」
縋り付くように頼み込む
悠の言葉に彼は一度下を俯き、立ち上がる
やっぱり無理なのか、そう思った悠だったが彼は手を伸ばして小さく呟いた
「...手、貸して...」
やっと、初めて頼ってくれた事が嬉しくて、悠は大きく頷くと肩を貸してやり、ベッドまで歩いてあげた
「....お前の言う通り、部屋まで戻れる気がしない....ちょっと休んだらすぐ行くから.....」
相変わらずの小さな彼の言葉だったが、照れ隠しで言ってるのかと思うと何だか可愛いな、と感じた
「うん、大丈夫だよ....ずっといててもいいよ?」
冗談半分、本音半分で呟いた言葉に彼は反応してくれなかった
ここにいれば殴られることはきっとないと思うから
だけど、そんなの不可能に近い
身体を横にして壁側を向こうとする彼を呼び止める
「あ、あの....君の名前....聞いてもいいかな..?」
彼は顔を背けた
——嫌って意味だ
「あ、ごめん!話しかけないって約束だったよな、ごめん...」
自分から提示した条件だったのに、不快に思わせたかと後悔する
「.....米倉、新.....」
だが、彼は悠の目を一瞥してそう告げた
「米倉、新....っ。いい名前だな!俺は瀬戸悠、悠って呼んでくれな!」
陽気に悠は握手をしようと手を差し出すが、新はそれをちらりと見ただけで、布団の中に潜り込んだ
やっぱりこれは無理だったか....
握る相手のいない手を引っ込めて、悠は部屋の片付けをしようとベッドを離れた
新か....イケメンに似合う名前だなあ...
....確か新を殴っていた集団の誰かも言ってたな....
回想すると鮮明に思い出せる校舎裏での出来事
よし、俺決めた...
新の友達になって俺が、新を守ってやる
ベッドを振り返って見ると、こちらに背を向け寝息を立てる新の姿があった
「まずは仲良くならなきゃな?.....」
悠は深呼吸すると、ダンボールを開け作業に入った
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