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暴走
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また、父親が暴れている。
幸輔は目を閉じる。耳を塞ぐ。布団に潜り込み、息を殺す。
それでも、音は消えない。何かが倒れる音。ガラスの割れる音。怒鳴り声。
早く終われ、と祈る。早く終われ。早く。
家中のいろんなものが悲鳴を上げるのをやめ、ドタドタと階段を踏みつける音が遠のくと、ベッドから体を起こして深呼吸を一つ。
終わった。そう、終わったのだ。父にとっては、長い一日が。時計を見ると既に午前2時を回っていた。
だが、幸輔の一日はまだ終わらない。父よりも更に長い幸輔の一日を締めくくるのに、必要な仕事がまだ残されている。
自室から出て二階へ上がる。階段の終着点から真っ直ぐに伸びる廊下の突き当たりのドアに近づいた。
中から、いびきの混じった寝息が聞こえてくるのを確認し、再び階下へ降りた。
リビングのドアを開ける。
そっと照明のスイッチを入れると、部屋は一気に眩しい光に包まれた。数回目を瞬かせ、辺りを見回す。
背の低い本棚が倒れている。床には本が落ちている。様々な食器が転がっている。マグカップ、グラス、白い皿。そのうちの幾つかは粉々だ。
一つ一つを手にとって、欠けていないか確かめる。欠けているものはゴミ袋に、そうでないものは濯いで拭いてから食器戸棚へ。ちりとりで粉々に砕け散った元コーヒーカップを片付けて同じ袋の中へ放ると、掃除機をかける。
倒れた本棚を起こし、元の通りに本を戻す。近くに転がっていた写真立てを、本棚の上に置く。
念のため他の部屋も見て回り、何も壊れていないことが分かるとホッと息をついた。
風呂場も一応確認し、洗面所に脱ぎ捨てられていた父のシャツやら下着やらを洗濯機に放り込む。洗剤を注いでスタートボタンを押した。
終わった。
今日の仕事が。今日が、終わる。
幸輔は自室に戻り、ベッドに潜り込む。時刻は午前3時。起床時間までは3時間しか眠れないが、これが幸輔の日常だ。
おやすみなさい。
ぐっすり眠ることさえできれば、また明日も笑っていられる。
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