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杞憂 1
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「……ねえ、大丈夫かな」
「大丈夫だろ、ミチルは」
「そもそもお前が二人っきりにしたんだろーが」
そう。あの場からみんなを出て行かせたのは俺だ。
みんなを連れて一階に戻って、リビングで二人を待っている。美佐子さんも英次さんも仕事をしてるから、この家には俺たちしかいない。
美佐子さんは夕方までのパートだから、もうすぐ帰ってくるだろうけど。
あ、美佐子さんと英次さんっていうのはミチルの母さんと父さんな。
最近碌に家に帰ってこなかったミチルを、二人とも心配していた。それは俺も例外じゃない。
ミチルのことだから、篠宮のことで何かあるんだろうとは思ってた。
アイツは俺ら以外の奴には警戒心が凄いから。
ここに住まわせてもらうことになったのは中学ん時からだけど、ミチルとの付き合いは小学校の時からだ。…まあ、最初は全っ然仲良くなかったけど。
でも、アイツのことはそれなりに分かってるつもりだ。今回のことだって大抵予想は付いてる。
ミチルはまず、俺らに近づく奴のことは徹底的に調べるんだ。
俺らに危険が及ばないように。誰も仲間思いの奴だと思う。
だからきっと、篠宮のこともアイツに頼んで調べたんだと思う。ミチルの幼馴染みで、情報屋のアイツを。
でも、そこから音楽室に来なくなった理由は、俺にも分からなかった。
ミチルが心配していること、つまり俺らの敵じゃないかってこと。それがもし黒であれば、ミチルは結果が分かったその日にでも、篠宮のことを潰すはず。
それをしないってことは、篠宮は完全に白だったってことだ。
ミチルは人のことを簡単に信じられないだけであって、多分篠宮のことを嫌いなわけじゃない。
俺だって篠宮のことは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。
恭哉が急に連れてきたときは、モサくて不気味で、なんだコイツと思ったけど。
毎日一緒にいる内に、アイツの性格が分かってきて、優しくて素直で、良い奴だって思った。
俺もミチルと似ているところがあって、かなり人見知りだし、人を信用するのにだって時間が掛かる。
そう、俺もだし、俺だけじゃなくて、ここにいる全員がそうだ。
俺ら五人は今までかなりいろんなことを体験してきた。他の奴が人生をかけても合わないような目に、遭ってきた。
その分人を奥に踏み込ませるのには抵抗があって、なかなか本当に信頼する奴なんて出来ない。
だから、篠宮とみんなが仲良くなれたのは、奇跡に近いことだと思う。
そんな篠宮が、ミチルが全然学校に来ないことを心配してたときに思ったんだ。
コイツなら。コイツなら、ミチルのことを溶かしてくれるかもしれないって。
ミチルの人を疑う性格のお陰で、今まで助かってきたこともある。でも、もう少し寛容になってもいいんじゃねぇかなって思うんだ。
ミチルには幸せになって欲しいから。
人を疑ってばっかじゃダメだって。そんなんじゃ卑屈になるだけだって。信じることも大切なんだって。
それは俺にミチルが教えてくれたことだった。アイツがいるから今の俺がいる。
だから、今日篠宮をここまで連れてきた。
音楽室に来ない理由は分かんねぇけど、ミチルは一人で考え過ぎちまうところがあるから。
だから、直接話したらなんとかなるんじゃねぇかなって思ったんだ。
……思ったんだけど。
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