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1-22 上書き
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「その感じだと、聞いてたんだろ」
「……」
「お前、クラスは?顔見せろ」
「ちょ、」
僕の制止なんて意味なく散って、響会長はあっさりと僕の頭を離した。
それならさっきお願いしたときに離してくれればよかったのに、と思うよりも早く、会長は僕の前髪をかきわける。
「あ、お前。」
にやり、と響会長が笑った。
その瞳は、あの人と同じくらい、深い深い「黒」で。一瞬、反応が遅れてしまうくらい。
「俺のスピーチで泣いたやつじゃねえか」
「え、」
「ちょうどいい。どうせ俺の親衛隊にでも入んだろ」
「、」
響会長は、僕の顎をくい、と持ち上げた。
真っ黒い瞳が、楽しそうに揺れている。
それはそれは、綺麗だった。
入学式で見た笑顔とは比べにもならないくらい、綺麗。
そうか、あれは、にせものだったのかとぼんやり思って。
「口止め料。」
「待っ」
またもや僕の制止の声を遮った響会長は、楽しそうな顔のまま、僕に触れるだけのキスをした。
それは本当に一瞬の出来事で。
「!」
「今日のことは忘れろ。誰にも言うなよ。"もし誰かに話したら、どうなるか分かります?"」
言葉の途中で、大きな猫をかぶりなおした響会長は、半ば突き放すように僕から離れて背を向ける。
「誰かに話したら、」
「…」
「君にキスされたと、言いふらしてしまおうかな」
僕の親衛隊は過激らしいですよ、と不穏な言葉を残して去っていく。
…最悪。
あの人との。
一哉とのキスが、上書きされてしまったような気がして、ごしごしと制服の袖で拭ったけれど、最悪な気分はどうにもならない。
噂を流すだけなら、本当にしなくてもいいのに。
わざわざ僕の最後のキスを上書きすることなんて、ないのに。
最悪。
ねえ一哉。
こんなことに縋っていた僕はバカみたいだと思うけれど、
僕は一哉とのキスを、
最後のキスにしときたかったよ。
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