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1-49 そもそも
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ギィ…
防音の重い扉を開くと、そこには誰もいなかった。
他の教室とは少し離れたところにあるから、ここは使ってないのかもしれない。
もしくは、後半に使うのかな。わからないけれど、今はとても助かった。僕の足はまっすぐと、ピアノに向かう。
寮の、僕の部屋には防音室があって、アップライトのピアノが1台置いてある。
お金持ち学校の設備はすごいもので、夜中まで弾いていても隣に聞こえたことはないらしい。
僕は毎日そのピアノを弾くけれど、音楽室みたいにグランドピアノを弾く機会は毎日あるわけではないから、少しテンションがあがる。
黒くつやりとした蓋を開け、鍵盤カバーを取った。白と黒のコントラストが、傷ついた心を落ち着かせてくれる。
何を弾こう。
少し考えたあと、僕が弾き始めたのはショパンの「練習曲作品10第3番」。
僕はこの曲を弾くのがすきだ。
甘い旋律から始まって、中間部の激しさは僕をいつもドキドキさせる。
日本では「別れの曲」という名前で親しまれているから、そう言った意味では今の僕にこれを弾く資格はないかもしれない。
僕と一哉の関係が終わったのは、「別れ」でもなんでもない。
僕たちは、ちゃんとした意味で出会ってすらいなかったのだから。
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