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2-10 前と今と
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「一哉は?あの子と…リン君と、じゅんちょー?」
「…ああ。うまくいってると思う」
…そっか。そりゃそうだよね。
一哉はリン君のこと、大好きだったもんね。
でもそれなら、どうして連絡なんてしてくるんだろう。
もうほっといてくれたらいいのに。
勝手に幸せになっていてくれればいいのに。
そうじゃないと僕は、期待、してしまう。
…あれ。
僕は、何に期待をしていたというのだろう。
「おい、イチ!戻るぞ!」
一哉と同じ学校のひとたちがぞろぞろと体育館から出てきて、僕らに気づいたひとりが声をかけてきた。
一哉は「今行く!」と答えて、僕の方に向き直る。
「そろそろ俺、行かないと。」
「うん、今日は試合、おつかれさまあ」
「…あのさ、あの日のことなんだけど、」
「、」
「いや、あの日に限った話ではないな…」
あの日。
彼が言うあの日と、僕が思うあの日はたぶん同じだと思う。
彼が僕と会わないと決めた日。僕が街に降りないと決めた日。
一哉は言いづらそうに目を逸らした。
けれどそれも少しの間だけで、僕の方に向き直った彼は、また口を開いた。
「酷いことをしたって、謝らないとって、思ってて…あの時の俺は余裕がなさすぎた」
「…」
「おまえの気持ち利用して、最後はあんな形で追い出して…今考えると俺何やってるだろうって思うんだ。
けどあん時はなんも周り見えてなくてさ…
馬鹿だったと思ってる。」
ぽつり、ぽつりと言葉をつなげて、一哉はその胸のうちを明かしてくれた。
そうか、一哉はもうあのときの一哉ではないんだ。
きっとリン君と、本当にうまくいっているのだろう。
あのとき、相手の気持ちを確かめるように浮気に走っていた一哉は、過去を省みることができるようになるくらい満たされているということだ。
「許してくれとは言えないけど、聞くだけ聞いてほしかった。本当に、ごめんな」
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