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2-11 単純
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あぁ…。
僕は一哉からそんな言葉がほしかったわけではなかった。
でもそれでも、その言葉をもらえて僕の心は落ち着いた。
バカだと思う。
傷ついた心は、こんな謝罪でどうにかできるほどのものではないはずで。
だけど今でも、ちぎれちぎれになった心をどうにかできるのはやっぱり一哉しかいないのだと僕は思った。
はたから見たらただの浮気男だとしても、あのとき僕の世界を広げてくれたのはほかでもない、彼だった。
一哉は僕のことを少しも好きではなかったのだろうけれど、それでもあの頃の僕はたのしかったし、
ピアノ以外に友だちができたこと、
そして誰かに恋をする気持ち、
そういうのをひっくるめて言ったら、「総合的には」よかったと言っていいのかもしれない。
一瞬のうちに、いろいろな考えが僕の頭を巡ったけれど、それを言葉にできるほど僕に余裕はなかった。
そのかわり、僕の目からは涙がつつ、つつ、と次から次から零れ落ちて止まらない。
ねえ魔女さん、
こういうときにだけ僕の声を奪うのは、やめてほしいよ。
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