アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
欠けてゆく #兄
-
底が抜けたように、暗く、果ての無い扉。
震える手でノブを握ったまま、闇をみつめて立ち尽くす。
渇いた唾液を飲み込み、意を決してドアを開けた。
数日前までは毎日何の問題もなく開けられていたはずなのに、今日はひどく重く感じる。まるで何体もの屍を引いているみたいだ。
やっとの思いで家に入り、人の気配が無い様子に安心して肩の力を抜く。無意識に止めていた息を吐き出し、手に持っていた荷物を床に置いた。
自然と視線が下る。
自分よりも一回り大きい男の靴が目に映った。
あいつが、家に居る…。
そう気付いた時にはもう遅い。
勢いよく扉が開き、避けていた人物が姿を見せた。
「っ兄さん!」
徐々にその姿が大きくなってくる。
逃げないと。 …早く。 早く!
そう頭では考えていても、コンクリートで周りを固定されているかのように自分の両脚がビクともしない。
目の前を厚い胸板で遮られ、男の匂いに包まれた。
呼吸が荒く乱れ、身体の震えが大きくなっていく。
全身から汗が噴き出し、視界が黒に染まった。
目を背けていた”あの夜”の出来事が、
色と熱を帯び、 一つ一つ 鮮明に蘇る。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
37 / 54