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欠けてゆく〔4〕
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どれだけ時間が過ぎただろうか。
落ち着きを取り戻した兄が胸元で小さく口を開いた。
「…っ……もう、…離せ。」
「……離したら、兄さん また出て行くんでしょ?」
抱きしめる腕に、少しだけ力がこもる。
兄がビクリと身を縮めた。
「…出てったら悪りぃのかよ。…早く離せ。」
「っ少しだけ! 話、したいんだ…。
何もしないから、話だけさせて!すぐ終わるから!」
食い入るような勢いで言葉を発した。
暫くして兄が観念し、2人無言のまま移動した。リビングの椅子に向かい合わせで座る。その間も、兄は頑なに目を合わそうとはしなかった。
何から話そう。どう伝えよう。
ずっと考えてきた筈なのに、いざ本人を前にすると思うように言葉が出ない。歯痒い空気がうっすらと漂う。
「…何だよ。 早く話せよ。」
先に口を開いたのは兄だった。結局整理がつかないまま、頭に浮かんだことを順に言葉にしていく。
「謝って許されるような事じゃないけど…、
この間は酷い事して、本当にごめんなさい。」
「良く分かってんじゃねーか。 許せる話じゃねーよ。」
兄の眉間に段々としわが寄っていく。
頬杖をついている手が頬に爪を立てていた。鋭く肌に食い込み、僅かに歪む。やりきれない怒りが目に見えた。
「今まで、沢山迷惑かけてごめん。
最後の思い出があんなのでごめん。
好きになって… ごめん。」
横を向く兄の目を真っ直ぐに見つめながら、一つ一つ言葉を絞り出す。
_____ドンッ!!
頬に立てていた爪でそのまま顔を引っ掻くように指を丸めた兄が、苛つきながら机に拳を叩きつけた。
自分を睨みつける兄と目が合う。
「…何が言いてぇんだよ。
そんなに反省してんだったらケジメつけろよ!!
もう二度とその面見せんじゃねぇ!」
兄の怒声が大きな振動を纏って部屋に響いた。
そのつもりではあるが、改めて本人に言われると正直身にこたえる。表情が崩れないように顔に力を入れ、涙を堪えながら言葉を続けた。
「…うん。もう見せないから、安心して。
今までありがとう。俺にとって最高の兄貴だった。」
少しの静寂の後、とびきりの笑顔で最後の言葉を告げる。
「俺…、兄さんの弟で良かった。凄く幸せだった。
さよなら、兄さん。元気でね。」
言い終えると同時に席を立つ。
溢れた涙がバレていなければいいと思った。
あらかじめ準備していたバッグを持ち、振り向かずにリビングを出る。
バイバイ。兄さん。大好きだよ。
足を止める事なく玄関へと向かう。
最後の兄の顔はとても険しく、口は堅く閉ざされていた。
静かにドアに手をかけた。
いつもよりも呆気なく、とても軽い気がする。
外は、家の中よりも幾分明るかった。
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