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再構築〔3〕
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カンカンカンカンカンカンーーーーーー…
遮断機が完全に下り、騒がしい機械音だけが鳴り響く。
ここの踏切、長いんだよな。
そんなどうでもいい事を考えながら更に足を進める。
5歩程進んでようやく電車が見えてきた。
踏切にも近づき、立ち止まろうとしたその時だった。
「うわっ!」
車道側の腕を力強く掴まれ、そのまま後ろに引っ張られた。唐突な出来事に驚きの声が漏れる。引ったくりか?そんな考えが頭を過った。
しかし目に映ったのは見慣れた顔。もう目にする事はないと思っていた顔だった。
「兄さっ…」
真横を通る電車によって、発した言葉はかき消された。
とても恐い顔をしているのに、
なんだか凄く哀しそうに見える。
襟元を掴まれた次の瞬間、左頬に強烈な衝撃が走った。
一瞬の出来事だった。
気づいた時には地に尻をつけ、
熱く痺れる頬に手を当てていた。
ゆっくりと兄を見上げる。
聞こえるのは、肩を大きく上下させた兄の荒い呼吸音。
電車はもう通り過ぎていた。
「ッ馬鹿野郎!! 何考えてんだよ!!」
大きく息を吸い込み、今まで見たこともない様な表情で兄が叫ぶ。その目から大粒の雫が溢れ出し、ぐしゃぐしゃな顔のまま涙ながらなに言葉が続けられた。
「勝手に死のうとしてんじゃねぇよ!!!
…っ…お前まで居なくなったら………俺っ…」
「…えっ? いや、俺、死ぬつもりなんて… 」
「うるせぇ!!」
考えもしなかった言葉に面を食らう。誤解を解こうと口を開くが、激情している兄は聞く耳を持とうとしない。
「あんな事で命投げ出そうとするんじゃねぇよ!!
簡単に消えようとするんじゃねぇよ!
もう、訳分かんねぇよ!
何もっ、 失くしたくないんだよ……
…っ……頼むから…、俺を1人にしないでくれよ…」
止まらぬ涙を流しながら声を震わせている。
こんなに弱々しい一面があるなんて知らなかった。
そういえば両親が他界した時に、一滴も涙を流さない兄に対して”何故泣かない”のか聞いた事があった。「泣いてるよ。泣いてる…。泣いてる筈なのに、…涙が出ないんだ。」兄はそう語った。
言葉を言い終えると同時に、膝から力無く崩れてゆく。
堪らず、そんな兄を両腕で包み込んだ。抵抗は無い。
ゆっくりと、小さく遠慮気味に兄の手が背中にまわった。
また、
この人を泣かせてしまった。
本当は、ひたすらに優しくなだめてあげたい。
でも俺はどこまでもワガママで、狡くて、嘘つきだから。そのチャンスにつけ込んで、もっと兄を困らせてしまうのだ。
「そうだね…。兄さんの言う通り、
兄さんが居ないと俺、死んじゃうかもしれない。」
その言葉に、兄の肩が大きくビクつく。
「ねぇ俺、また一緒に住んでもいいの?」
一度鼻をすすって、嗚咽交じりに兄が口を開いた。
「…っ…わか、んねぇ…」
「俺、きっとまた兄さんを抱くよ?
それでも、俺を側に置いてくれるの?」
「…… 」
何も言葉は返ってこなかった。ただ兄の手に力が入り、自分の服が静かに握りしめられていくのを感じた。
「…帰ろうか、兄さん。 一緒に帰ろう。 」
暫くして、兄の体を支えながらゆっくりと立ち上がった。
落としていた荷物を持って、2人兄の車まで無言で歩く。
聞こえるのは、鼻をすする音と、
まだ時々漏れてしまう嗚咽。
幸い 人や車の通りは全く無く、道の真ん中に停められた大きな塊を咎める者は誰もいなかった。
兄を助手席に乗せ、自分は運転席に座る。
ルームミラーに兄が映り込み、静かにエンジンをかけた。
人は、 自分は、
本当に貪欲なのだと そう思った。
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